いつでもおいで。

末澤くんと特支教室 ページ3

Story.1 夢主side
『末澤くんと特支教室』

もうどのくらいか、２年は前の話だったと思う。
週末になると決まって体調を崩す男の子がいた。
誰かが付き添ったりして保健室へ来る時もあればこっそり休み時間に１人でやって来たりもする。

「先生…」
「末澤くん、どうしたん？」
「しんどい」

ある日も保健室へ来て、ソファーに小さく蹲る。
熱は出てなさそうだけど…と額に手を置いたら、小さな手が触れた。末澤くんの手は酷く冷たい。
数秒経つと何も言わず手を外して眠りにつく。
…そういうところに、不安が垣間見えるような。

「どうしたもんか…」

周期的な体調不良はストレス性の確率が高いし、寝ている間に誰かを呼んで話を聞くべきかなあ。
最初に相談したのは先輩の先生でカウンセラーも務める真鳥先生、事の顛末を話したら保健室までわざわざ来て下さって、末澤くんの所へ行くと、

「…嫌、止めて、嫌や…！」
「末澤くん？っえ、」

寝ているのに突然声を上げて、直後にその小さい手から想像もつかない強さで私の手首を掴んだ。

「助けて…お母さっ、嫌…お願い止めて！」
「末澤くん、痛いっ」
「落ち着いて、大丈夫。末澤？起きて？」
「いや、いやあっ！！……ぇ、あ…」
「おはよ。怖い夢見た？」

混乱しているのか起きても私の手首を掴んだまま肩で息をする末澤くんに真鳥先生は核心を突く。

「お母さんとお兄ちゃんの夢？」
「…！」
「誰にも言わへんからさ、教えて？」

末澤くんの体に力が入ったのを見た真鳥先生が、手を包み込んで私の手首を自由にしてくれた。
赤く痛む手首、でも末澤くんの痛みはそれ以上。
私達を見つめる末澤くんの目から涙が溢れた。

「…お母さんが、お兄を殺して、死のう、って…」
「それは夢？ほんまの話？」
「夢やと思う…けど、怖い…」

末澤くんは涙ながらに家族の事を話してくれた。
お兄さんが数ヶ月前から病気で暴れたり泣き叫ぶなどの症状があること、お母さんも付きっきりでここ最近まともに顔を見ていないこと＿＿恐らく体調が悪くなるのは家にいる事自体のストレス。

「どうしたもんですかね、真鳥先生」
「んー、俺に任しとき？」

末澤くんを救えなくても教師として絶対に守る。
それから真鳥先生は週に１回のカウンセリングを始めて、末澤くんは愚痴を言えるだけで楽なのか中学生に上がってから体調不良も少なくなった。
今は真鳥先生によく懐いてて特支教室まで会いに来るらしいから、あの時相談して本当良かった。

古謝くんと特支教室→←はじめに

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す