・ ページ3
１年前の夏祭りから1週間後、君は私の目の前で発作を起こした。左胸を掻きむしるようにして、膝から崩れ落ちていく君が、頭から離れない。
荒い呼吸、伝っていく汗の雫、形のいい眉を険しく歪めて、君は動転する私を宥めるように見つめた。
震える私の腕をギュッと掴んで、君は少しだけ身体を起こした。
「A、花火は、絶対に……」
力尽きたみたいに私の服を掴んでいた腕をだらん、と下ろして、君は瞼を閉じた。私は君の名前を泣き叫びながら、携帯電話で病院と君の家族に電話をかけた。
付き添いで救急車に乗ったときに知ったけれど、君は重い病気だったらしかった。病院の人も君の家族も、私に気を遣って教えてくれなかったけれど、お見舞いに行った私はついに聞いてしまった。
「このまま目を覚まさないかもしれません」
ドラマや小説で聞いたことのあるような言葉。知っているはずのそれなのに、頭の回転が鈍くなって、何を意味しているのかよくわからなくなった。その後に続く、君の家族のすすり泣く声に紛れて、私は泣くことも出来ずに走り去った。
君と最後に遊んだのはいつだっけ、君と最後に一緒に帰ったのはいつだっけ、君の好きなものは、君の好きな場所は何だっけ、君と最後に交わした言葉は……。
そこまで考えて初めて足が止まった。偶然にも、君の病室の前だった。君の名前が書かれたネームプレートを見た。
「花火……」
君が瞼を閉じたその直前に言い放った言葉。私の約束を、絶対に守ると誓い直したのが、最後。
君の黒い瞳にきらきらと映る花火の光が、君が夢中になって空を見ていた横顔が、今年だけでいいから見たい。
そう思ったときに気づいたのだ。
君のことが、私は______。
ようやく自覚したときには、伝えられもしないのだから、私はそこでやっと涙を流したのだった。果てしなく続く白い廊下に、壁一枚隔てて今日も心臓を動かしている君がいるのに、ただひとり泣き崩れた。
泣き顔で君の前に行きたくなかった。ただそれだけのことだった。
それから毎日欠かさず君の元を訪れた。毎日同じ薄い青____後に調べて薄浅葱色と表現するのだと知った____の服を着る君に、ひたすら話しかけ続けた。
君の病室を出てから気が済むまで泣いて、次の日の放課後また君の部屋を訪ねて、を繰り返して、1年間。
君は未だ、綺麗な寝顔を見せている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
