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「まさ、き・・」
震える声で、その名前を呼んだ。
様子がおかしかったのは、このせいだったのか。雅姫はこのことを知っていて、だから気がかりで仕方なかったんだろう。なんで、雅姫が。なんで、僕に相談してくれなかったのか。
「なんでッ・・！」
僕は君の力になりたかったのに。君のためだったら、火の中へだって喜んで飛び込むだろう。
・・今からでも間に合うんだろうか。
力の入らない足でふらふらと立ち上がり、走り出す。平衡感覚を失ったようにぐらぐらとゆれながら白い服を着た人たちのあとを追いかけていく。うだるような暑さの中で、雅姫が最後に言っていた言葉が頭に響いた。
『バイバイ』
＊＊＊
「っは、は、ぅ、はっ」
切れた呼吸もお構いなしにがむしゃらに歩を進める。白い服の人たちはもうとっくに後ろのほうへと見えなくなっていた。それでも、なんとなく僕には場所がわかっていた。
木々が風に揺れ、ざわざわと不穏な音を立てる。うっそうと生い茂る草は僕の足を邪魔して走りにくいことこの上ない。
そして、ようやくそれが晴れた。
「雅、姫・・」
真っ赤な夕日とともに、彼女の姿が照らされている。白い服の村人とは正反対の黒い装束。それはやけにぴったりと彼女に合っているように見えた。
「来たんだ」
雅姫は振り返らずに言った。
「バイバイって言ったじゃない。なんで来たのよ」
「そんなもので僕が納得すると思ってるのか！」
あの言葉だけでさようならなんてたまったものじゃない。第一僕はまだ君に伝えたいことがあるのに――。
「そんなものって・・冬樹にとってはそうかもしれないけど、私はっ・・！」
ばっと雅姫がこちらに振り向く。
「私がどんな思いで言ったのか知らないでしょ！」
声は震えていた。雅姫の作った握りこぶしはその激情を表すかのように強く握りしめられている。
「なんで、なんで・・！」
言葉にならない思いが、森の中で木霊する。それを受けて、僕の心も揺さぶられていた。
こんな風に雅姫が今まで怒るのを見たことがなかった。そんな思いを一人で抱えていたのかと思うと、気付けなかった自分を一発殴ってやりたい気持ちと同時に腹が立って仕方なかった。
「雅姫こそなんで言ってくれなかった！言ってくれれば、一緒に悩んだのに・・！」
「あんたに迷惑かけたくなかっただけなの！言ったって・・言ったってどうにもならないでしょ！！」
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