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確かに僕に話したってどうにもならないかもしれない。それでももっと早くに知っていれば、なにか奇跡がおこせたかもしれないという思いが先だって仕方なかった。
「それでも僕は一緒に悩みたかった!力になれなくても、ただのエゴだとしても君を助けたかった!」
ざりざりと砂を踏む音が聞こえてくる。もう追いついてきているのだろうか?
「第一あんな別れ方で納得できると思うか!?僕はできないよ。例えその別れ方が雅姫の望む綺麗じゃないものだとしても、最後の一瞬まで僕は君といたい」
雅姫の瞳が揺れる。
「・・なんで、冬樹はそんなことを言ってくれるの・・。生贄の私を庇おうとするなら、村の人たちは容赦なくあんたを殺すわよ!」
「知ってるよ」
それはひしひしと感じていた。この村の人たちはまるで何かに取り憑かれたかのようにその神様のことを信仰している。だから立ちはだかる僕はあっさりと亡き者にされてしまうだろう。
「僕は最初に会った時から、君のことが好きだった。好きだから力になりたいし、好きだから君を守りたい。それじゃいけないのか?この夏を超えて、雅姫といつものように遊びたい。ただ、それだけでいいんだ」
ざり、と足音が止まった。
「僕と一緒に逃げよう、雅姫」
時間は一刻を争っていて、もしかすれば僕はここで襲い掛かられて死ぬかもしれない。それでも少しの間だけ時間稼ぎができればそれでいい。僕は君が答えたとおりに動くだけだ。
雅姫は戸惑ったように眉を寄せて、頬を伝う雫を拭った。それから小さく口を開けて、鈴の鳴るような声で答えた。

「・・助けてっ・・!」

雅姫がそう言うなら、僕は全身全霊を賭してでも戦えるような気がする。ようやくこぼしてくれた雅姫の本音は、想像していたよりずっと心の底に響いた。

「僕は君を守る。命の尽きる最後まで」


ぱちゃり、と水の音が耳を打つ。塩を含んだ独特のにおいが鼻孔をくすぐった。
「さっきの冬樹、かっこよかったよ」
「っ・・もうその話やめてくれないかな」
さっきは気分が高揚していたからあんなに恥ずかしいセリフを言えたものの、素面に戻って改めて考えてみると頬が紅潮してしまう。そもそも僕が守るって言ったって大したことが出来るわけじゃない。結局山の上から全速力で逃げるしかなかった。
「だって本当のことだもの。・・私さ、」
雅姫が海から足をあげ、砂浜に座りなおした。

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作者名:8人の小説家 x他6人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年6月3日 18時

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