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そんな軽口を叩きながら、お手本を見せるようにひと皿洗ってみせて、人差し指で小さく擦る。キュ、という高い音が短く鳴って、呆れたような表情のまま「どこにそんな確証があるんだい」と呟くリドルくんにスポンジを押しつけた。
手を洗いながらにっこりと笑って「これだけ。カンタンでしょ?」と軽く首を傾げる。
「…簡単、だけれども」
「けれども?なに、私にお嫁さん見せたくなかった?」
「そういうわけじゃなくて……」
皿の上でスポンジを滑らせながらもごつく姿に疑問を覚えたが、あ、とすぐに気づく。
「異世界だから非現実的だと思ってんだ?」
確信を突くような言葉だった。真横にいるリドルくんのほうへ視線を流すと、伏せられていたまつ毛が微かに震えた。ような気がする。
段階を踏むようにゆっくりと、ぬめついた手の中からお皿が落ちていくのがよく見えて、そっと抜き取った。
「…そうだよ、非現実的すぎる」
それは、いかにも"リドル・ローズハート"という回答だった。この場合、どんな返事が正解なのか。脳みそを巡らせながら、泡だらけの皿を重ねて端に置いておく。
飲みかけのお茶が入ったままの、ニトリで買ったコップを逆さにひっくり返して「でもさ、言うだけタダじゃない?」と呟いた。
「言うだけ、タダ?」
「そう。言って誰かがヤな思いにならないなら、好きなこと言っちゃえばいいよ。言葉を発することにお金はかからないからね」
「それはまた不思議なことを言うね」
「言うだけタダだから!」
明るく言ってみると、リドルくんは大きな瞳を一層丸くしてから、ゆるゆると目尻をとろけさせた。まるで、張り詰めていた糸が緩んだような、そんな柔らかさ。糸が1本1本剥がれていって、ひとつの糸がいくつもの細糸にさけるような、そんな瞬間を目にしているような気分だった。
「…じゃあ、もし結婚式も挙げることになったら。キミも招待するよ」
「えっ?ほんと?」
「言うだけタダと言ったのはキミだろうに」
ふふ、と相変わらず上品に笑って、リドルくんはコップを洗っていた。
ヤッパ非現実的だよなあ。と、どこか現実的な部分の私が頭の中を無邪気に駆け回っていたけれど、そんな気持ち吹っ飛ぶくらいには嬉しかった。
ハッキリ言って、このすべてが非現実的。いま起きている出来事全ても、非現実的。
「なるといいね、楽しみにしてるよ」
それでもわたしは、非現実を願わずにはいられない。
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Collet(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます!^^飯テロ小説初めてなので美味しいと思っていただけているのならとっても嬉しいです〜!わたしも国宝級イケメンと住みたいんですけどそんな世界線どこかにありませんかね…。 (2020年9月27日 17時) (レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
いろは - もんのすごい食レポ上手いっすね...お腹すいてきました()リドルくんと住みたいぃぃぃい (2020年9月27日 16時) (レス) id: 783a9cd7e8 (このIDを非表示/違反報告)
Collet(プロフ) - まめさん» キレ気味笑いました!ありがとうございます!頭の中で喋っているリドルくんを書き起こしているだけの状態なので、私の解釈しかこもってないんですよ…。理想通りで嬉しいです!^^ 次回更新で続編に移るので、そちらもぜひ読んでください。 (2020年8月21日 0時) (レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - 可愛いなぁもう!!!(キレ)めっちゃ理想どうりのリドルくんで感動してます!大好きです!更新がんばってください。応援してます! (2020年8月19日 19時) (レス) id: 9861be23cf (このIDを非表示/違反報告)
Collet(プロフ) - やなさん» ありがとうございます……ありがとうございます…リドル・ローズハートをどれだけ可愛らしく見せられるかチャレンジやってるので……"毎回楽しみにしている"とのコメントも、とっても嬉しかったです!書く気が起きました。よかったらまたコメントしてくださいね。 (2020年8月13日 2時) (レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Collet | 作成日時:2020年6月21日 10時