32 ページ32
．
この世界で生きていくためには元の世界同様、勉強は必須と思われるので、こういう暇な間にやっておいた方が良い。リドルは筆記用具なども彼女の部屋から拝借して、テーブルの上に広げる。
そしてようやく手をつけられる、というところで──ふと、彼は"ある存在"を思い出した。
『冷蔵庫に入ってるいちごタルト、勝手に食べていいからね』
それはまさに、悪魔の言葉。リドルの背中を後押しするように、何度も頭の中でリピートされる。
ナパージュされた艶々のいちご。一噛みするだけで甘酸っぱい果汁が口の中に広がって、濃厚なカスタードクリームとタルト生地のサク、トロ食感が口の中で蘇った。分泌された涎を飲み込み、彼は喉を鳴らす。
頭を働かせるためなんだから、少しくらい……
「い！…いや……食べちゃダメだ…」
誰にも止められていないというのにも関わらず、リドルはすんでのところで急ブレーキをかける。
彼女だって「食べていい」と言っていたのだから、別に食べることについては誰も咎めやしないだろう。けれど、なぜか罪悪感が背後に付き纏って、食べるに至れない。
初めての感情にヤキモキしながら、リセットするように麦茶を口に含む。
「ローズハートくん」
その瞬間、リドルは盛大に吹き出した。
突如出現したモニターに、見知った顔が現れたのだ。あれほど交信を図ろうとして、無理だと諦めた向こうの世界の人物。
「ッ！？ぐ、ゲホッ、ごホッ…が、学園長……？」
手で抑えたのでかろうじて酷い被害はなかったのだが、手と口の間からぼたぼたと麦茶がこぼれ落ちる。ゴポゴポと水気のある音と咳き込んだせいか掠れた声で、リドルは返事を返した。
相変わらずと言ったらいいのか、「おやおや」と、心配しているように見えて、どこか他人事のような素振りでクロウリーは笑う。
「元気そうでなにより。無事でしたか？……というのは愚問ですかね」
「……そうですね。なんとか生きてはいますが。親切な方が助けて下さりました」
「おや、では心配しなくても大丈夫そうですね。今なんとか時空管理局に頼み込んで調整して頂いているので、あと2週間ほど耐えてもらえることは出来ますか？」
選択肢があるようでない言葉に、リドルは片眉を上げて、それから好戦的な笑みを返した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 332人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
Collet(プロフ) - いろはさん» コメントありがとうございます！^^飯テロ小説初めてなので美味しいと思っていただけているのならとっても嬉しいです〜！わたしも国宝級イケメンと住みたいんですけどそんな世界線どこかにありませんかね…。 (2020年9月27日 17時) (
レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
いろは - もんのすごい食レポ上手いっすね...お腹すいてきました()リドルくんと住みたいぃぃぃい (2020年9月27日 16時) (レス) id: 783a9cd7e8 (このIDを非表示/違反報告)
Collet(プロフ) - まめさん» キレ気味笑いました！ありがとうございます！頭の中で喋っているリドルくんを書き起こしているだけの状態なので、私の解釈しかこもってないんですよ…。理想通りで嬉しいです！^^ 次回更新で続編に移るので、そちらもぜひ読んでください。 (2020年8月21日 0時) (レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - 可愛いなぁもう！！！（キレ）めっちゃ理想どうりのリドルくんで感動してます！大好きです！更新がんばってください。応援してます！ (2020年8月19日 19時) (レス) id: 9861be23cf (このIDを非表示/違反報告)
Collet(プロフ) - やなさん» ありがとうございます……ありがとうございます…リドル・ローズハートをどれだけ可愛らしく見せられるかチャレンジやってるので……"毎回楽しみにしている"とのコメントも、とっても嬉しかったです！書く気が起きました。よかったらまたコメントしてくださいね。 (2020年8月13日 2時) (レス) id: 0bc2fe8691 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Collet | 作成日時：2020年6月21日 10時
