肆 ページ36
「Aさ＿！」
敦の叫びは無慈悲にも、彼女に届かなかった。獣の刃の隙間から、血飛沫と童女の悲鳴がこぼれ出てくる。やがて、それらは止んだ。それが意味するのは＿。
「う、嘘だ…」
黒い獣が離れた。赤く染まった地面に転がされていたのは、肉片と血管と臓腑を辺りにまき散らした少女がいた。一目で判る。織田Aは、絶命している。
「そんな＿！」
敦はへなへなと地面に崩れ落ちた。
死んだ。Aが死んだ。自分のせいで＿。芥川は云った。自分が生きているだけで周りの人間が不幸になるのだと。矢張りそうなのだろうか？
「…く、ん…」
ふと、敦の耳にか細い声が届いた。振り返ると、其処にはもう息も絶え絶えの様子の谷崎が突っ伏していた。
「敦、くん…逃げ、ろ…」
血を吐きながら云う谷崎には、確かにまだ息があった。隣に倒れるナオミも呻いて身じろいでいる。二人は生きていた。それが敦の希望となった。そしてつい先程の国木田とAの言葉が脳裏に過った。
＿貴様も今日から探偵社が一隅・社の看板を汚す真似はするな。
＿生きちゃいけない人間なんていない！
敦の目つきが変わった。何かを為さんとする目をしていた。
彼は雄叫びを上げながら、芥川に向かって駆けて行った＿
「玉砕か＿詰らぬ」
芥川が異能が敦に迫る＿間際に、敦は上半身を伏せて、黒い獣を避けた。そして地面に落ちていた拳銃を拾う。先程樋口が手放してしまった銃だ。そのまま構えた。
「ほう、」
芥川の無防備な背中に銃が散弾する。黒外套が硝煙を噴いた。やったか…？敦が口元を緩ませた瞬間。
ぐりんっ。芥川の、あの不気味な程に黒い瞳が振り返った。薬莢がカランカランと音を立てて、彼の踵の傍を転がる。
「そ、んな…何故…」
弾は凡て当たった筈だった。一体どうして。
「今の動きは中々良かった。しかし所詮は愚者の蛮勇。云っただろう。僕の黒獣は悪食。凡るモノを喰らう。仮令それが『空間そのもの』であっても」
此処が戦場であるにも関わらず、芥川は爪先で薬莢を踏んで弄ぶ余裕さえ見せた。
「銃弾が飛来し着弾するまでの空間を一部喰い削った。槍も炎も空間が途切れれば僕まで届かぬ道理」
「な…」
敦は言葉を失った。そんなの攻撃の仕様が無い。
「そして僕、約束は守る」
黒獣は今度こそ狙いを外さなかった。敦の足元を過った獣は、しっかりと彼の右足を咥えていた。
今度、路地に響いたのは少年の悲鳴だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 43人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サラ(プロフ) - あいさん» ありがとうございます、張り切ります! (2018年11月12日 1時) (
レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - おお！更新ありがとうございます！これからもファイトです！ (2018年11月6日 8時) (レス) id: a2c75168cb (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - あいさん» いえいえ、待っていてくださってありがとうございます!何とか書き上げられるように頑張ります! (2018年10月22日 23時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - ストーリーが思いつかない感じなんでしょうか？全然待つので、最後までお話が読みたいです！よろしくです！！もし、しつこかったらすみません･･････更新頑張ってください！ファイトです！ (2018年10月22日 21時) (レス) id: a2c75168cb (このIDを非表示/違反報告)
サラ(プロフ) - あいさん» いえいえ、ご期待に添えるか判りませんが、頑張らせていただきます!これからもよろしくお願いします! (2018年8月21日 22時) (レス) id: cb57f05521 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：サラ | 作成日時：2018年8月21日 22時
