6.逃げないで ページ7
彼の対応が変わらないことに安堵する。私だとバレていないと証明されるからだ。
役柄はベテランの(近所にいそうな)おばちゃん。ちなみに声まで変えている。
(よし!さりげなく聖奈ねえがどこにいるか探ろう)
「そういえば貴方、一緒に共演していらっしゃるモデルさんがどちらにいるか知っているかしら?忘れ物を届けて欲しいって頼まれちゃって!」
「あっ…忘れ物ですか?彼女と電話とか繋がりました?」
(…確かに。何で電話で場所を聞かなかったんだろう。そうすれば迷うこともなかったのに)
彼の考えに納得させられる。
染谷くんはやっぱり頭がキレる(羨ましいし、それが私に悪影響を与えているのも忘れないが)。
感心していると、
「どうせ君のことだから、お姉さんが撮影中だったらどうしようかとか考えてたんでしょ?」
「そうそう。電話の着信音が鳴ったら、姉達みんなに迷惑かかっちゃうし………ん?」
ちょっと待て。今このアイドルは何て言った?“君のことだから”?え?
戸惑う私はやがてすぐ後ろに気配を感じて、
「A、そのキャラ何なの?」
とん、と肩に手が置かれた。
(あれ?バレてる…)
すぐ振り返るのは恐ろしくてゆっくりと、男子にしては華奢な手を目で追っていくと、物凄く綺麗な笑顔(※怒っている)があった。
「な、何で、私だって…」
「後ろ姿に見覚えがある気がして。後、声がAだったから」
「声変えたのに!」
抗議の声を上げるも、彼はジュリエッタの前では絶対見せないような得意げな笑みを浮かべた。
「僕が君を見つけられないなんて、ありえないから」
整った唇から発せられた甘い言葉に恥ずかしくなって逃げ出す。
これは、
だって、染谷くんに口説かれるはずない。私たちはとっくに別れたのだから。
この部屋を出れば夢から覚めるかもしれない、と前のめりになる意思と裏腹に、私の体は後ろへ強く引き寄せられた。
「逃げないで」
気がついた時には彼の腕の中だった。
耳にかかる吐息が、この状況は現実だと知らせる。それに…
(染谷くん、震えてる)
そう気づいて逃げられない。思わず自分からも抱き締めたくなってしまう。
「……別れてからも、ずっとAのこと考えてる」
「え」
「自分勝手でごめん。だけどやっぱりAのこと諦められないんだ」
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ほたる(プロフ) - 奈津さん» ありがとうございます!出来上がり次第、更新します! (9月20日 6時) (レス) id: 858ad6cafb (このIDを非表示/違反報告)
奈津(プロフ) - めちゃくちゃ好きです、更新楽しみに待ってます!! (9月19日 22時) (レス) @page4 id: 1b362c8584 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほたる | 作成日時:2023年8月22日 17時