アマレット (ページ10)

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７年前の冬ページ10

「ミツが当番変わってくれるから、Aも行かなくていいよー」

同じく当番だった佐藤くんにそう言われた。
そっか。北山くん、みんなの当番全部変わってあげてたんだ。

優しいんだな。
今日も、何も言わず変わってくれるの？

そう思ったら、自然と理科準備室へ足が向かっていた。

チラっと覗くと、人体模型とにらめっこしてる。

それ、気持ち悪いでしょ。今日は何を頼まれたの？

「あれ、A…塾とか行かねーの？」

「うん、今日はお休みなの。
…一人で片付けるつもりだったの？」

「おー。塾無いならさ、たまには寄り道とかしちゃえば？
ここは俺やっておくからA帰っていいよ」

「ううん、手伝うよ。私当番だし」

「…そっか。ありがと。
つーかさ、Aが初めてだわ。一緒にしてくれるの。

みんな帰って塾とか家庭教だし」

「まぁ…今一番追い込みだからね」

２体ある人体模型を分解して、パーツを１つずつ乾拭きしていく。

しばらくは他愛の無い事を話してたけど、だんだんネタが無くなってきた。

少し沈黙が続いたあと、北山くんから「彼氏と冬休み会った？」って聞かれてしまった。

別れた、なんて言ったら理由聞かれたりするのかな。
聞かれたら、やっぱり話さなきゃダメ？

だから誤魔化そうと思った。
でも、何故か別れたって正直に話してしまう。
近くに好きな人がいる北山くんが羨ましいって事まで。

「好きな人が近くにいても、ダメな時はダメだから」

そりゃ、そうだけど…
近くに彼女がいる北山くんには分からないんだよ。

側に自分の事を好きでいてくれる人がいるかいないかの重要性。

そんな人がいるだけで、自分の存在意義みたいなものが感じられるんだよ。

別れを告げられた時は不思議と出なかったのに、今北山くんに話したら、何故かポロポロ涙が溢れてきた。

「ごめん…

え…？」

涙を拭ったのは自分の手よりも、北山くんの指の方が早かった。

「…泣くな」

この日から、私にとって北山くんは〝特別〟になった。