アマレット (ページ7)

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７年前の春北山・side ページ7

３月の夜は、まだかなり寒いし冷たい風が強く吹きつける。
衝動に任せてAと二人になったけど、実際何を言うとか用意してたワケじゃない。

「…はっくしゅんっ」

「寒い？」

駅裏にある小さなベンチに並んで座って、さっきから他愛の無い話ばかり。
大学行ったらどんなサークル入るとか、バイト何するとか、免許取りに行くとか。

「あの…こんな話したかったの…？」

「…いや」

「どうしたの？何か内緒の話でもあるの？」

「…その…」

まだ、その時は自分のこの気持ちの正体が分からなくて。
ただ、山田って奴と付き合って欲しくないってそれだけ。自分は彼女いるのにな。

なかなか切り出さない俺に、Aはため息をついた。

「ごめん。寒いし、帰るね」

「えぇっ！？ちょっと、まだ話…」

「だって寒いんだもん。ほら、指動かなくなってきた」

差し出された指にそっと触れたら、氷みたいに冷たかった。
俺は寒くてもあんまり手が冷えないタイプで、Aが驚いた顔をしてる。

「すご…。北山くん手、冷たくないんだね」

「Aが冷たすぎるんだろー。…あのさ…」

さりげなく、手を繋いだ。
当然驚かれて、引っ込めようとしたけど、もっと引き寄せる。

「あれっ、朝比奈さん？」

その声は、見つめあう格好で固まってた俺らの空気を一瞬で違うものに変えた。

「あ…山田くん…」

「凄い偶然！朝比奈さんも家この辺なの？」

「ううん、クラスの子たちと遊んでて…」

「北山くん…だっけ？」

「あぁ。知ってんの？」

「うん。北山くん目立つから。…えっと二人は…」

「駅まで送っただけ。…じゃ、あとはよろしく～」

あぁ、俺のバカ。今までで一番バカやろーって思った。

なんでわざわざ山田って奴にAのこと引き渡しちゃったんだろ。

二人が見えなくなる角を曲がって、今更やっと気づいたんだ。

Aのこと、好きなんだってことに。

だけど、Aとはそれっきり会わなかったし、絵里から山田って奴と付き合い始めたって聞いた。