アマレット (ページ44)

今日:18 hit、昨日:2 hit、合計:553,980 hit

44 ページ44

北山くんの姿が見えなくなるまでその場から動けなかった。
ダメだ、やっぱり今夜は家に帰ろう。

一人になって、頭冷やしたい。

「…もしもし」

『もしもし。…終わった？接待』

「うん、終ったよ。さっき解散した」

『じゃ、待ってるわ』

口調は、一応穏やか。
でも、何となく…根拠があるわけじゃないけど、少し冷たいというか、なげやりというか。

「ごめん。疲れたから、今日は自分の家に帰っても良い？明日も仕事だし…」

『…そんな風に疲れてもさ、結婚したらそーゆうわけにはいかないよ？』

「え…」

『疲れたら、実家に帰るの？』

「そんなこと、しないけど…
でも、今はまだ…」

『プロポーズしたんだけど、俺。そりゃ保留にはしたけどさ、結婚ってそーゆうことでもあるんだよ』

「うん…。分かった、今から行くから」

自分でも分かってる。
真人くんにこんな事言わせてるの、私のせいなんだって。

少し前なら、飲み会の後だって残業してから次の日が早番だって、真人くんに誘われたら喜んで遊びに行ってたんだもん。

それが、ここ最近断ってばかり。
そりゃ、何が言いたくもなるよね。

『いや、いーわ。どうせ来ないかと思って、俺も明日朝から予定入れたし。

ごめんな、変なこと言って。ちょっと酔ってるから気にすんな。じゃ、おやすみ』

プツンと切れた電話。
プープーって機械音が無機質に流れてて、虚しさを誘う。

「なーにやってんだ…私は」

たかが、昔好きだった人に再会しただけなのにさ。
ちょっと一緒に仕事して、距離が一気に縮まって。

相手は、昔からチャラさには定評があるんだから。
何期待しちゃってんだか。

今の私の彼氏は真人くん。
男性不信になりかけてた時出会って、また男の人を信じられるようになったのは真人くんのお陰。

頭では分かってるんだよ、そんなこと。

なのにどうして
心は言うことを聞いてくれないんだろう。

北山くんのくれた名刺の右下に書いてある電話番号を見つめて、グッと我慢する。
これを最近何度繰り返したんだろう。