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少し昔話をし出すと止まらなくて。
懐かしくて、楽しくて、でも時々胸がぎゅって捕まれるみたいな切ない感じもした。
「あー…やべ。仕事の話しなきゃなのに、思い出話しちゃった。
ごめん。で、松岡さんとか上の人たちと相談して実際に置かせて貰う本の種類とか、価格とかなんだけど…」
「うん。見積もりは、この前貰った状態で良いみたいだよ？
こっちとしては、松越のVIP顧客さんに会社の名前売るチャンスだから、基本的には任せるって」
「うん。ま、値段交渉は俺らが話しても仕方ないことだからさー…この封筒渡しておいて、飯田店長に。
で、Aと話したいのは店舗内のデザインね。はじめの二週間は旅雑誌メインでいきたいからー…」
仕事の話になると、真面目な顔に一瞬で変わる。
でも、昔話してたから時間も無くなってしまって、また次の機会になった。
心の何処かで、次も会えることが確約された事が嬉しくて。
きっと、昔の懐かしい気持ちが蘇ってるだけ。
プライベートで繋がるわけじゃない。
そんな風に言い聞かせて、テーブルに広げられた資料を片付けてると、北山くんの手が止まった。
「…Aさ、今夜残業とかする？」
「え…」
「…飲みに誘ったら、マズい？
何かさっきの話してたら懐かしくて。今夜空いてたら、どうかなって思って」
「あ…えっとー…」
「彼氏、怒る？」
「…怒りはしないと思うけど…」
「いるんだ、彼氏」
「いるよ。…ご心配なく」
「そっか。…ごめん、今の無しで。また次の打ち合わせでな」
え、もう引き下がるの？
もうちょっと押してくれなきゃ、行きたいとか言えないよ。
そのまま従業員出口に送ってくれて、そこは周りの目があるから、完全に取引先相手への対応。
「では、次の打ち合わせで。忙しいのに申し訳ないですが、その時までに店内の本に付けるPOPの作成お願いしますね」
「承知しました。では、本日はご馳走様でした、失礼致します」
「こちらこそ、わざわざ来て頂いてありがとうございました」
外に出たら、いつもより夕焼けの色が濃くて。
あの理科準備室から見た夕焼けも、こんな風に濃い日もあった。
やっぱ、さっきのお誘いは断って正解。
あんまり深く関わると、きっと私は…
また、好きになるから。
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作者名：さくら
| 作成日時：2016年9月30日 15時
