第1話 ページ1
カタン、という歯切れの良いエンターキーの音が、机上の蛍光灯の光1つだけの暗い部屋に響く。パソコンのディスプレイにはしばらくローディングを続けた後、｢保存完了｣の文字を現した。その瞬間、画面に食いつくように前屈みになっていた少女……アリスは、糸が切れたようにため息をつきイスの背もたれに寄りかかった。掛けていた眼鏡を外し、伸びをひとつ。ついでに欠伸もひとつ漏れた。
『やっと終わった……！これが1日分って、ちょっと量多すぎよ』
ぼやきながら時計を見れば、もうとっくに日を跨いでいた。しかし彼女にとって夜更かしなど慣れっこである。特段慌てることなく、空のコーヒーカップを手に1階への階段を降りる……前に、自室の隣の部屋のドアをなるべく音を立てず開く。彼女の弟の部屋だった。
1人で寝るには大きめなベッドですやすやと寝息を立てる弟の顔を見れば、いくら疲労困憊でも笑顔が自然と浮かんでくる。静かに戸を閉め下へ降りると、キッチンでコーヒーカップを軽く洗って元の場所へ戻した。
ふと、何気なしに外を見る。プールの水面に鏡のように映る星空、満月がとても綺麗だった。
アリスはベランダを開けてサンダルを履く。12時以降に外へ出ることは今出張中の両親から禁じられていたが、家の敷地内のプールなのだから問題はないだろう。そう判断した彼女は1歩踏み出した。
その時。
「うわぁ─────っ！！」
『！？』
場に合わない悲鳴が響く。ハッと前を見れば、落ちてきた大粒の翡翠色の瞳と目が合った。
ほんの一瞬だった。
なのに彼女にとっては時が止まったような、そんな錯覚を起こすくらい鮮明にその翡翠が脳裏に焼き付いた。
その後“それ”は目の前のプールに落下し、豪快な音を立てて水飛沫、いや、水柱を作り出した。
余程勢いよく落下してきたのだろう、水柱は夜空に浮かぶ満月に届きそうなくらい高く舞い上がり、そのまま重力に逆らわず落下した。プールから離れていたアリスの目の前まで水飛沫が舞う。
アリスは無事水も被らずに済んだが、そんなことは最早どうでもよかった。咄嗟にプールに駆け寄って水面を覗き込む。その中では塩化銅の液体より青い何かが水から上がろうともがいては沈んでいく、そんな様子を捉えた。
『……何、あれ』
水中で暴れる青い“それ”に釘付けになったアリスは、そう呟かずには居られなかった。
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A - すごく素敵な作品でとても続きが気になります！続編もお願いしますっ！ (2022年4月24日 22時) (
レス) id: 1c577920f9 (このIDを非表示/違反報告)
憂象 - めちゃくちゃ面白いですね！！！！再度ハマるきっかけになりました！！ありがとうございます！！！(><＠) (2022年3月11日 21時) (レス) @page50 id: 63f42a208b (このIDを非表示/違反報告)
にーご - すごく面白いです！続編も期待しています(●´▽`●) (2021年2月7日 21時) (レス) id: 1e32eaca6c (このIDを非表示/違反報告)
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