賢い狐にご用心 Ⅱ (ページ38)

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夜も遅くなってきた頃、僕はあることに気づいて購買部へと足を運んでいた

あることっていっても牛乳切らしていたな、ってことだけど

ｶﾗﾝｺﾛﾝ)
『サム君いるかな？』

「おっと、珍しいお客さんだ！ちょっと待っててくれるかい？」

『もちろん』

そうか、ここは明日シューターショップになるんだね

「おまたせ！さぁ、何をお求め？」

『普通に牛乳を』

「In stock！オマケでキャンディでも付けようか？」

『いらないよ(笑)あ、そうだ。この前頼んでいたアレ。届いた？』

「あぁ！今日の午前中に届いたよ！はい！」

魔法薬学の古い本

古代言語も使われていて面白いものだ

『お代は…何が欲しいのかな』

「A、と言ったら？」

『僕の飼い犬が許さない』

「ふぅむ……何か最近錬成した物は？」

『ふふ、そうだねぇ。……アレキサンドライト、なんてどう？』

「Wow！そんな貴重な物いいのかい？」

『いいよ。僕が作りたかったのはそれじゃないから』

「参考までに、真の目的は？」

『……イエロージルコン。僕の誕生石なんだ』

「……そっか。じゃあアレキサンドライトを今度持ってきてくれよ」

『あぁ、必ず。また何かあったらよろしく頼むよ』
ﾊﾞﾀﾝ)

「イエロージルコンの石言葉は……
“産みの悲しみ”」

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ちょっと余計な話をしてしまったかも

最近自分のことを忘れそうになる

覚えているのはNRC(ここ)での生活が始まってからのことだけになりそうで

それ以前の記憶を脳が拒絶しているんだ

母親に勉学の努力を強いられ、それ以外の好奇心を満たしてくれるものは抑圧され

ずっと、ずっと、母に褒めて欲しかった

いつかは、よく頑張ったね、と言ってもらえるのでは

そう思って文句も言わずひたすら机にかじりついた

僕は忘れもしない

ナイトレイブンカレッジから迎えが来たときの、あの人の第一声を

“この年まで迎えが来ないなんて、やっぱり出来損ないだわ”

迎えが来たのは16になる年だ

別に普通じゃないか

それに続いて母が発した言葉に目の前が真っ暗になった

“お兄ちゃんは絶対にもっと早く迎えが来てたわ”

…僕に兄はいない

いや、いたけど死んだ

生まれたときに

双子の兄は死産だった

僕は、助かったのに祝福されなかった

それだけでも辛いのに

存在しない兄の話をしないでほしかった

僕を見ていてほしかった
　