第27話 ページ30
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「尚のヤツ、ぜってぇなんか隠してやがる……」
隣を歩く松田が、不機嫌そうに頭の後ろで腕を組んで舌打ちをした。
先程まで屋上で警察を目指す理由について話していた松田と加賀利、そして僕の三人は、点呼の時間が近づいたため寮へと帰っていた。
男子寮と女子寮の分かれ道で加賀利と別れて早々に呟いた松田の言葉に、僕は先程の彼女の表情を思い浮かべる。
第一印象は、クールで大人しそうな奴。中性的な顔立ちはとても整っていて、透き通った白い肌はまるで陶器のようだった。
……が、蓋を開けてみれば、すぐ拳が飛んでくるような男勝りで思いの外ノリが良く、中高生くらいの男子学生みたいな奴だった。
初めこそ表情筋が弱そうな印象だったのに、コロコロと変わる表情は見ていて結構楽しかった。
そんな彼女が先程見せた、困ったように笑う表情はどこか不安定で。
出会ってまだ少ししか経っていないものの、ふわりと笑った表情や不機嫌そうにジトリとした目で睨んでくる表情もだいぶ見慣れてきた僕にとって、彼女のその表情は初めてだった。
それなのに、どこか既視感を感じたのは何故だろうと考えると、
「何か誤魔化しているような感じだったな……もしかして、僕達に言いたくない事があったのか?」
「だろーな……アイツ、自分の右腕掴んでたし」
尚が隠し事をしてる時の癖なんだ、と松田は言って大きな欠伸をする。
確かに加賀利は、右腕の二の腕あたりを跡が残りそうな程強く握っていた。
「心当たりはないのか?」
「ねぇよ……今まで聞いたこともねぇ」
「意外だな…松田なら物凄い剣幕で問いただしそうなのに」
そう言った僕に、当然松田の苛立った声が返ってくると思っていたが、聞こえてきたのは今にも消え入りそうな声だった。
「尚が泣いてるのは、もう見たくねぇんだよ……」
その声に僕は驚き、思わず立ち止まって松田を見た。
泣かせたのか?と聞くと、んなわけねーだろと彼は睨む。
話を聞けば、どうやら松田は加賀利が昔火事に遭ったことを知っていたようだった。
その関係の話をした時、滅多に泣かない加賀利が珍しく泣いたらしい。
それ以来、その話題に触れないようにしているのだと松田は言って先を歩き始めた。
「──だから俺は、それ以上のことは知らねぇ……」
僕はただ彼の背中に、そうか…と返すことしか出来なかった。
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作者名:りもねん | 作成日時:2022年5月28日 14時