第26話 ページ29
◇
降谷の言葉に、私は一瞬口を噤む。
自分が警察を目指す理由も当然聞かれると分かっていたのにも関わらず、いざ聞かれると先程見たばかりの夢を思い出してお腹の底がヒヤッとした。
私はそれを悟られないように笑顔を作り、えぇと…と言葉を濁す。
そんな私に、俺も聞いたことねぇ、と言いながら陣平は口を尖らせる。
お互い様だと意地悪に笑ってやれば、ほんの少しだけ気持ちも落ち着いてきた。
大丈夫、声は震えていない。
「私がまだ陣平達に出会う前の話なんだけど──」
話せば少し長くなるよ…と前置きをして、私は重い口を開いた。
十余年前、鬱陶しいほど蒸し暑い真夏の夜の事だった。
轟々と燃え盛る炎が私の普通の日々を、兄を、奪ったのは。
火事の原因は放火だった。
当時小学生だった私は、自分の家に火を放つ人物を目撃していたのだ。
私は運良く救助され、もちろん警察にその事を伝えた。
「──でも、警察は私の証言を無視して"不慮の事故"として処理したんだ」
当然、私は信じられなかった。
話をしている間は、ほんの子供である私の話もちゃんと聞いてくれていると思っていたから。
それから私は、警察を信用出来なくなった。
「だから私は、二度とそんなことが起こらないように内側から変えてやるって思って……」
もちろん警察全員がそんなことする訳じゃないのは分かっているし、今はそこまで嫌ってないけどね、と付け足して私は笑った。
嘘は、吐いてない。
ただ全てを話していないだけだと、自分に言い聞かせてまた笑顔を取り繕う。
誤魔化してしまった自分が情けなくて、申し訳なくて、私は自分の右腕をギュッと握った。
今話した事もたしかに理由の一つではあるが、本当はそれだけじゃなくてもっと大きく歪んだ、醜い理由があった。
火を放った人物が返り血を拭いながらこちらを振り向いた時の記憶が、やけに生々しく蘇って吐き気を覚える。
未だに兄が"殺された"あの日に捕らわれている私には、まだ全てを話すことは出来なかった。
ましてや、自分で犯人を探し出して復讐しようなんて醜い考えを彼らに話す勇気など持ち合わせていない。
口に出そうものなら私はきっと耐えられないだろうし、今まで保ってきた何かが壊れてしまうような気さえしていた。
話せなくてごめん…と心の中で謝る私には彼らの顔を直視することなんて出来ず、振り返って春の冷えた夜空を見上げた。
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作者名:りもねん | 作成日時:2022年5月28日 14時