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さらば真選組篇/3つの盃 ページ3

酒の注がれたお猪口を手に取った後、銀時は少しジトッとした目になる。




「普通怪我人を酒に誘うか」


「んな事気にしてたら、生まれた時から頭に大怪我負ったお前は一生飲めねェだろ」


「てめェはジャングルで腐った果実の汁でもすすってろゴリラ」


「……それに、(コイツ)でしか癒せねェ傷ってもんもある」




しんみりとした、やっぱりらしくない彼の口調と言葉に、銀時はお猪口を口に当てたまま動きを止めた。そんな彼を気にせず近藤は言葉を続ける。




「戦ってのはつくづく酷だな。勝っても負けても、得る物より失う物の方が多い」




それでも勝者は、勝ち得た物を指折り数えて失った物はそのための代価だったと慰めが出来るだろう。


だが敗者は、失った物を数える事しか出来ない。護れなかった味方に斬り捨てた敵、戦で生まれた(とが)全てが身に重くのしかかる。




「俺達の戦いは何だったんだ。払った代償に、汚した手に、意味はあったのかってな。お前はそんな思いを戦で何度もしてきたのか」


「……勝とうが負けようが、何を護ろうが何を失おうが、戦に意味なんてねェ」




銀時は前を見つめたまま近藤の問いにそう返した。それでも彼の瞳に映っているのは、屯所の中庭の木や岩なんかじゃなく、立ち上る煙や転がる死骸達だ。


戦なんてどう繕っても、最後に残るのは屍と罪だけの不毛な所業。そこまでして護る価値のあるものなんて何も無い。


そしてもし、そんなものがあるとするならば。




「そんなくだらん(もん)が必要ねェ時代を築こうと、敵ではなく自分と戦い続けた(おもい)達だけだよ」




そして彼の(それ)は、まだ死んでいない。繋ぐ者がある限り。




『江戸を託せるのはそなたらしかいない』





銀時と近藤は同時にお猪口に酒を注いだ。自分のに注ぎ終わると、次は2人で3つ目のお猪口に注ぐ。近藤はそれを手に取ると立ち上がって、酒を空に向けて撒いた。




「ならば俺達には、葬式も別れの言葉もいらねェな」




交わすのは、この盃だけで充分だ。




「万事屋。お前が俺と同じ思いで良かった。たとえ何者の屍を越えようとも護らねばならんものがある」




突然歩き出した近藤に向けた銀時の瞳が、彼等の姿を映した途端瞠られた。




「トシ達に伝えておいてくれ。バカなマネはするなと。江戸にはまだお前達が必要なんだとな」

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しらぬい - そうなんですね!急かしてしまう形になってすみません…!楽しみにしています〜! (2020年6月17日 19時) (レス) id: 411c9be34b (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - しらぬいさん» ありがとうございます。見廻組の2人良いですよねホント……。「たち別れ」はですね、まだ1話も書いていないんです。夜には公開できると思います。 (2020年6月17日 19時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
しらぬい - さらば真選組篇 前半お疲れ様でした!異三郎と信女の過去はやっぱり泣けます……。 ところで質問なのですが、パスワードが分からず「立ち別れ」に入れませんでした……パスワードを教えて頂く事は可能ですか? (2020年6月17日 19時) (レス) id: 411c9be34b (このIDを非表示/違反報告)
ゆず(プロフ) - まめさん» 分かります、原作読んでる時まさかの事実に泣いてました。髪飾りはですね、今後の展開(多分後半の方)を楽しみにお待ちいただければと思います。 (2020年6月17日 8時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
まめ - さらば真選組篇前半完結おめでとうございます! もうこの時点で泣けますね...これから壊れた髪飾りもどうなるか気になります..! 完結まで駆け抜けて下さい!ついていきます!! 体に気をつけて更新頑張って下さい! (2020年6月17日 0時) (レス) id: 7bb68938d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ゆず | 作成日時:2020年6月3日 8時

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