有馬山

将軍暗殺篇／依頼 ページ25

「だが夜兎(あやつら)が相手ではそれも幾ばくもつか」



百地の声を聞きながら皆で走る。




「よくきけ。西の岩壁 摩利支天の彫像近くに里の者のみが知る抜け道がある」




橋の上を渡りながら、百地はそう言った。その言葉に少しの違和感を感じてAは彼女を振り返る。見えたのは、立ち止まる百地だった。




「そなたらは将軍を連れ、伊賀から連れ出すぞよ」




ドドォン！！ と轟音が響く。百地が巨大手裏剣で橋を壊したのだ。彼女はA達の向こう側。間には深い谷。




「も、百地さん！？」


「夜兎はここでわしが食い止める」




百地は無表情を崩さない。それでも、その声音には暖かい色が宿っていた。




「たとえ伊賀が落ちようともこの国を沈ませるワケにはいかん。将軍様、最後までお仕えする事ができぬ事お許しくだされ」


「百地……！！」


「忍だけじゃ心許なかろう」




茂茂が驚いた様に言う。それからもう１つの声。


Aが左目を瞠った。心配そうにその瞳が揺れる。




「こいつは忍と侍の共同作戦のはず」


「なら侍(オレたち)にも手柄を分けてもらうぜ」




近藤と土方は、崩れた橋にしがみ付いて百地の方に残っていたのだ。這い上がる彼等を見ながら万事屋の３人も目を見開いた。


驚く彼等を２人は振り返る。




「ってワケだ、さっさといけ」


「A、情けない顔してんじゃないぞ」




近藤の言葉に、Aはムッとしたようだった。揺れる瞳を２人から隠す様に顔を背けて、何度か深呼吸をする。




「待て、お前ら！！」


「万事屋」




神楽の引き止める声には反応せず、近藤は今度は３人に向けて言う。もうその顔は、真っ直ぐ前を向いていた。




「てめーらとはなんやかんやで長ェつき合いになっちまったな。だが俺達ゃ今迄１度だって、てめェらに仕事を頼んだ事はなかった」




銀時はその言葉をジッと聞いていた。Aをチラッと見ると、彼女はグッと拳を握ってまた２人に目線を向けた所だった。




「それがまさかこんな日が来る事になるとは……。だがもう、てめェら位しか頼める奴は残ってねェ。てめェら位しか任せられる奴は残ってねェ」




２人がまた振り返る。近藤は少し笑っていた。




「こいつが真選組(オレたち)の最初で最後の依頼だ。万事屋、将軍様を頼む」

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