泣けよ ページ40
「A」
2日前、花見の時や旅行の時に会ったAの姉貴が死んだ。
親しくしていたワケでは全くないけれど、いつも優しく微笑んでいたのを覚えている。
その姿が、自分の姉と少し重なったから。
Aの部屋の障子を開けてそう呼ぶと、左の壁に寄りかかって引き寄せた膝に顔を埋めていた彼女の肩が、少し揺れた。
顔を上げたAは、いつもと変わらない様子で「総悟」と俺の名前を呼ぶ。
そして、「どうしたの?」と首を傾げた。
「いや」
なんて言えば良いのか分からなかったから、そう言って部屋に足を踏み入れる。
駆け寄ってきた太陽を抱き上げて、Aに歩み寄った。
「A」
また呼ぶと、「何?」とまた首を傾げる。
月みたいな綺麗な表情に何も言えなくなって目線を下げると、彼女の手首に目が行った。
そこにいつも付けている、姉貴の目の色と同じ瑠璃色の組紐を、もう片方の手がそっと触っていた。
ハァ〜、と深く溜息をついて、抱いていた太陽を脇へ下ろす。
右手をAの後頭部に回して、そのまま彼女の頭を自分の方に引き寄せた。
頭が肩に当たる。
「何?」
「……我慢してんじゃねェよ」
ポツリとそう言うと、「してないよ?」なんてソプラノが耳元のすぐ近くで聞こえる。
「嘘つけ」
「嘘なワケ無いじゃん」
「こんなにいつも通り装ってて、我慢してねーとかねェだろィ」
Aは確かに強いけど、同じくらい弱いんだ。
心の中ではクルクル感情が変わっていて、プラスの感情や怒りなんかはすぐに表に出すのに、悲しみだけはそれをしない。
だから、そう。
「何で俺の前じゃ泣かねーんだ」
泣いた後なんだろうな、って表情も、泣きたいんだろうな、って表情も、何回か見た事がある。
でも、泣いているところは今まで1回も見た事ご無かった。
この10年間、1回も。
「泣けよ。我慢してんな」
手合わせをする前なんかによく、「泣くなよ」って言葉を言い合った。
実際はどちらも勝敗の結果で泣いた事なんて1度も無かったけれど。
でも、今日は。せめて今日だけは、泣いてほしい。
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ゆず(プロフ) - りさん» ありがとうございます! バラガキ篇大好きなので、ドンドン更新していけたらと思います。全力で頑張ります! (2020年4月23日 19時) (レス) id: d7263fa231 (このIDを非表示/違反報告)
り - 続編おめでとうございます!!これからも頑張ってください全力で応援してます!! (2020年4月23日 19時) (レス) id: e466fb159c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆず | 作成日時:2020年4月23日 12時