世の中よ

大人からすれば ページ39

……何だ？




「お、おい」


「うん？」




同じ机で書類を書いているAに、戸惑いながら声をかける。


すると、普段と何も変わらない様子で首を傾げられた。




「お前……休まなくていいのか？」


「仕事を？ 大丈夫大丈夫。４日も連続で休んだんだし」




スパンとそう返して、Aはまた書類に目線を落として文字を書き始める。


２日前に姉を亡くしたばかりの筈なのに、やっぱりその姿はいつも通りだ。


気を遣っているこっちが馬鹿らしくなってくるが、それでも気にしていないなんてやっぱりあり得ないだろう。




「休め」




頭にポンと手を置いて顔を無理矢理書類から上げさせ、目を見て言った。


その満月みたいな瞳はあからさまな不満の色を浮かべていて、いつもなら大喜びだろうに、と思う。


やっぱりいつも通りではないかもしれない。




「休め」


「……え〜」


「休め」


「……は〜い」




渋々、といった感じで頷いて、Aは筆を置いて俺の部屋を出て行く。


すぐ隣の部屋の障子が開いて閉じる音がして、大人しく自室に戻ったのが分かった。




前の総悟にも思ったが、どうせならもっと子供らしく泣きじゃくってくれれば良いのに。


そうすれば俺達だって、堂々と気を遣ってやれるのに。


そうすれば俺達だって、堂々と宥めてやれるのに。




素なのか強がりなのか分からないいつも通りが、１番性質(タチ)が悪い。


まだ１８なんだから、もっと自分に素直になってほしい。


でもそれを言えばあの２人はきっと、「もう子供じゃねェ」と声を揃えるのだろうなとも思う。

泣けよ→←２回目のだいすき

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す