道具 ページ29
ハァ、ハァ。
撃たれた足を引きずる様に歩きながら、一歩一歩進む。
暫く進んで行くと、大きくひらけた場所があった。
乱戦の中で逸れたAは見つからず、代わりに大勢のガラの悪い連中がそれぞれ武器を手にして居た。
土方の正面、荷物の入っているのであろう大きな箱の上に、蔵場は立っていた。
「残念です。ミツバも悲しむでしょう、古い友人を亡くす事になるとは」
悲しみがこれっぽっちも入っていない声音。
その顔がまた無表情で、感情を全く感じさせなかった。
「あなた達とは仲良くやっていきたかったのですよ。あの真選組の後ろ盾を得られれば、自由に商いができるというもの。そのために縁者に近づき縁談まで設けたというのに、まさかあのような病気持ちとは」
何も言わない土方に、蔵場はそう言う。
Aの読み通りだ。
「姉を握れば総悟君は御しやすしと踏んでおりましたが、医者の話ではもう長くないとのこと。非常に残念な話だ」
コイツはミツバの事を、想ってなんかいなかった。
「……ハナから俺達抱き込むために、アイツを利用するつもりだったのかよ」
「愛していましたよ。商人は利を生むものを愛でるものです。ただし、道具としてですが」
土方の問いに、蔵場は冷たく言い放った。
「あのような欠陥品に、人並みの幸せを与えてやったんです。感謝してほしい位ですよ」
『……せめてよォ、死ぬ前に一時でも、人並みの幸せ味わわせてやりてーんですよ』
人とは思えない冷たい言葉に思い返すのは、珍しくアイツが吐き出した弱々しい素直な言葉だった。
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作者名:ゆず x他1人 | 作成日時:2019年11月11日 17時