瀬をはやみ (ページ19)

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理由ページ19

「攘夷戦争は終結し、世は新時代を迎えた」

建物の前に野郎共を集まらせ話し始めたのは、警察庁長官だという松平片栗虎というオジさん。

「しかしまだ世から争いの火種は消えちゃいねェ。巷には攘夷志士を名乗る無頼の徒が闊歩し、攘夷と称し不逞をくり返し江戸の平和を脅かし続けている。まあ言ってしまえば、お前さんらと同じような連中だ」

私達はその話を、周りよりも少し離れた木の影で聞いていた。

近藤さんは何か難しい顔をし、総悟なんかは完全に飽きている。

「自分の力を持て余し、どこへぶつけていいか解らねェ。奴等は攘夷だ報国だとのたまっちゃいるが、要はただ暴れる理由がほしいだけの連中さ」

攘夷と聞いて思い出すのは、兄達の事だった。

あの時お兄は『幕府に喧嘩を売ってくる』って言っていたけれど、要はその戦争に参加するって事だろう。

当時よりも幾分か世の中の事に詳しくなった今なら分かる。

「そこで幕府(オレたち)は考えた。お前らみてェな連中の力をもっと別の事に使えねェかと。お前らが暴れるに足りる他の理由を見つけてやれねェかと。それがこの、特別治安維持部隊浪士組を募った理由だ」

噛み付く様な目でいた奴等の目が、次第に驚きへと変わっていったのが分かった。

単純馬鹿達は、どうやら“ノせられた”らしい。

「どうだい、お前さんら。どうせ暴れんならその力……何かを傷つけるためじゃねェ、何かを護るために使っちゃみねェか」

大層な事を謳っちゃいるけれど、要は野良犬同士で噛み合いをさせようって話だ。

……でもまあ、使えるチャンスは使ってやる。

江戸で立派な侍になって、また皆に逢うんだ。