【文スト】噂の最強異能力者は華麗にヨコハマを闊歩する

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兄の言葉に、きょとんとした顔をする


言っていることがまだ飲み込めていないようだ


兄は妹から体を離して、その目を見てゆっくりと口を開く



「この世界は、このヨコハマは、まだお前を必要としている。お前の弟子は欧州を平定したが、お前は世界をも手中に収めた。お前が知らぬだけで、世界は未だに混乱に陥っている。

欧州は世界の一端だ。それしきを手玉に取られたくらいで何を落ち込んでいる。お前の弟子だ。正しく育っていれば優秀になるに決まっているだろう。

良いか。弟子が凄いのでは無く、お前が凄いのだ。お前は変な所で自己肯定力が低い。
お前は全ての学問に10歳の時点で精通し、6ヶ国語を収めたのは僅か5つの頃だ。15歳で幹部に上り詰め、世界の均衡とまで言わしめたのは就任して2年だ。

新しい風がなんだ。まだ世界はお前の時代だ。新しい風のことは、新しい時代が来たら考えろ。お前が作った時代が終わる前に、背を向けて逃げるな。育てた物には、ちゃんと最後まで責任をもて」



低く、かなりのスローペースで放たれる言葉が、いやに耳に、脳に響く


………つまり、この兄は、まだ辞めときじゃ無いだろと言っているわけである


あんなに大きな組織を電撃退職した女に、今尚世界から追われる女に……いや、世界が自分を追うというのは、兄の言う通り、まだ世界が自分を必要としているということだろうか。それとも、ただ単にまだ混乱しているだけなのか、其れは分からないけれど


相変わらず、正論すぎるほどに正論で、人の心を掴んでくる言い回しは健在である


こうなった兄に勝てた試しなんて1度もない。いや、この兄に勝てたことなんて、普通の勝負ことでも全くないのだが……いや、この兄と勝負なんて結果が見えすぎてやろうともしたことがなかったので分からない


………それに、そろそろ元気を出さないと、ひっつき虫の如く何処までもついてくるあの執事が、安心して本国に帰れない

私が無理を言って着いてきて貰っている彼には、この後望む行く末を歩ませてやろう



『………一応聞きますが、拒否権は？』


「拒否するつもりが無い者に、私が与える訳がないだろう」


『アハハっ、違いない！！！』



そういつものように笑った彼女は、既に引っ込んだ涙の後を拭って、再び福沢に慈愛と敬意を込めた目線を向ける


その先に来た彼は、薄く笑っていた



『A、又の名をヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。ヨコハマの武装探偵社に、入社致します』

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