【文スト】噂の最強異能力者は華麗にヨコハマを闊歩する

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「っ、」



逃げ回る太宰の耳に響く、優しくも絶対的な指示の声

その音に、太宰は体の芯から湧き上がるものを感じ、こっそりその口の端を上げた


軽薄で女好きで自〇マニアで、一言で言うと変人とも言える太宰が、彼女には誠実に振る舞うのには訳がある


遡るマフィア時代

太宰がマフィアに加入した15歳の時点で、彼女、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは20歳であり、当時のマフィアの中でも噂の的となっていた欧州の異能者集団『時計塔の従騎士』の幹部として名を馳せていた

会ったことは無いが、欧州から取り寄せたという彼女の肖像画に、青少年太宰治は撃ち抜かれた



殺されるならこの人がいい

なんならこの人と一緒に心中したい



太宰の中ではよくある思考。
美しい女性を見たらなりふり構わず心中を誘う現在の奇行から考たらここまで普通の反応だが、更に大きく彼女の存在を太宰に縛り付けた出来事があった


それは、彼女が所用で日本に来た時

太宰が、組織に反発した人間の始末を命じられ、それを全て終わらせ、そして彼の当時の不安定さを象徴する行為である、笑いながら既に死んだ死体に銃を乱発していた時


怖くて部下の誰も止めることが出来なかった時、どこからともなく現れた白くて長い、そして柔らかく温かい手に止められた



『やめなさい、ヨコハマを背負う若き子よ。』



紛れもなく、あの時見た肖像画の君


全体を白で整えた装いは、彼女の隠しきれない高貴な雰囲気をより引き立てている
鍔広の帽子で少し顔が隠れているが、そこから覗く黒い目の深すぎる慈愛に満ちた眼差し


太宰はその時、また撃ち抜かれた


そして彼女は、再び口を開ける



『たった今、君たちの手によって殺されることにより、ヨコハマの安定した均衡の礎になるという名誉を賜った者の体だ。墓に入れることは叶わずとも、栄誉ある役割を担って死んでいく者に、無体を働くことはいけないよ』



そしてまた、太宰の心は落ちていった

どんなに非道な事をしても、彼女の眼差しから慈愛の心が無くなることは無い

彼女はいつでも、慈愛と敬意を持って、人々と接している



『…………いけない子だね。闇に身を置くならば…………もう少し、命の扱い方を学ばなければならないね』



そして、太宰はここで肖像画から数えて4回目の恋に落ちた


少し低くなった声は優しさと温かさも含まれているけれど、有無を言わせぬ絶対的な声色

それに太宰は、体の芯から溢れ出る何かを感じ取った

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