【文スト】噂の最強異能力者は華麗にヨコハマを闊歩する

・15 ページ18

((ｶﾞﾀﾝ


「ヒッ、い、今物音が………」


「いや、ただの風かなにかの物音だね」


「ひ、人喰い虎だ……僕を食いに来たんだ！！！」


「落ち着いてください敦くん。人喰い虎の体長は一般的な虎の体よりもより巨大と聞きます。こちらにやってくるとするなら、入口くらいの大きさがないと」


「どうしてそんなに冷静なんです？！」



突如響いた大きな物音に、敦はひっくり返りながら距離をとり、太宰や執事に虎だ虎だと咽び泣く

しかし3人の様子は何ら変わりなく、太宰は本を未だに眺めているし、執事は茶器の片付けをしているし、彼女は静かに微笑んで彼を見つめている


確かに、虎のことを毛ほども怖がっていなかった人達だ。今更突然現れようが、別にそこまで驚くことも無いのだろう


だが敦は違う。虎に毎日のように追いかけられ、恐怖に日々を染め上げられた彼にとっては、途切れることなく震えが込み上げてくる


何故そんなに冷静なのか。

そんな彼の心からの疑問に、そして最早彼の中で答えが出かけた問いに、その麗しの女人が声を上げた



『何故なら、我々は虎の正体を知っているし、最早捕まえたと言っても過言では無いからね』


「…………は？」



敦が素っ頓狂な声を上げる

しかしそれは馬鹿者のそれではなく、今で尚恐怖に染められた少年の、理解できない意を表したそれだった



『我々の見解では………いや、ここは本職に任せよう。謎解きはの種明かしは探偵の仕事だからね』



そう言って彼女は静かに目を伏せ、1歩下がって観覧の意を示す

そして指名された探偵は、本を閉じて木箱から降りると、栄えある名誉を賜ってくれた麗しの伯爵(アール)へ、感謝の意を込めて胸に手を当て恭しく礼をすると、姿勢を外套に手を突っ込んでいる、いつものデフォルトに戻して、その場で見解を述べた



「そもそも変なのだよ

経営が傾いたからって、そんな理由で養護施設が児童を追放するかい？大昔の農村じゃないんだ。いや、第1に経営が傾いたのなら1人2人追放した所でどうにもならない。半分くらい減らして、他所の施設に移すのが筋だ」



太宰はそう言って数歩進み、敦の正面を陣取る



「………何を言ってるんです？この人は、何を言っているんですか、Aさんっ………！」


『聞きなさい。彼が言っていることが、事件の真相だよ』



敦が伸ばした手は、優しげな声音と共に振りほどかれた


窓の外には、今にも雲の隙間から姿を表しそうな満月が
『月下獣』の再来を望んでいる

・16→←・14

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す