【文スト】噂の最強異能力者は華麗にヨコハマを闊歩する

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再び、絶対零度の何かが走る


彼女の隣にいる執事はどうということも無く立っているが、少し離れたところでこちらを見ている2人は、この世ならざる空気を感じている



『冗談ではあるが、まずは目の前の任務を遂行したらどうかな？虎を探しているのだろう？』


「貴女方が逃げないと約束してくださるなら」


『逃げないさ。逃げる理由がないからね。
唯、最早夜も深い。我々は家に帰りたいのだが』


「宜しいのですか？私はその瞬間に、ポートマフィアと異能特務課に、貴女の居場所をリークしますよ？」


『ならば、私は新たな就職先として、ポートマフィアに加入するとしようか』


「おや、やろうともしない事を口に出して驚かせないでくださいよ」


『その言葉、そっくりそのままお返ししよう。
時計塔に所属していた人間を、たかがリーク如きで揺らせるつもりもないだろうからね』


「…………………」


『……………………』



無言、である


双方とても良い笑顔ではあるものの、お互いに腹の探り合いに難航を極めている

この間、どちらか折れた方の負けである


この冷戦、制すのはどちらか



『…………フッ、アハハハハハっ！！

いやぁ、長らく離れていたが、こんな探り合いも久しぶりだ。
そうは思わないか？トマス(・・・)？』


「………伯爵(アール)、若い子を苛めるのはお止め下さい。伯爵(アール)の崇高なる博愛精神に傷が付きます」


『ふむ、怒られてしまったな
まぁ良い。と、言うわけだ太宰君。虎探しでも港近くの倉庫でも何処でも連れていきなさい。私は、ヨコハマの均衡を守るために日夜問わず走り回る素晴らしき若者達の仕事に水を指すのは本意では無いからね』



ケラケラ笑う彼女を、執事はやれやれと言った様子で窘める


先程の冷たい戦いはなんだったのだろうか
後ろの2人はポカンとしているし、当の太宰も目を見開いている

しかし、彼女達の気の軽さに観念したのか、疲れたような、諦めたような感情を孕んで笑った



「逃げようと思ったらいつでも逃げれたでしょうに、全く貴女は噂通り、年下を弄ぶのがお好きなようですね」


『おや、人聞きの悪いことを言わないでくれ。一応これでも博愛主義者で通っているんだ。』



そう言って太宰と彼女は、初めてその時本物の笑顔で笑いあった


…………間もなく、深夜になる


今夜は満月だ

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