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西校舎から本校舎への移動の間、お互いのことをいくつか話し合った。
俺が外部からの特待生だということ、先輩は部活にも委員会にも所属していないこと、先程先輩が西校舎にいたのは生徒会の友人に用事があったからだということ。
約十分程度の時間だったが、俺と先輩が距離を詰めるのには充分だった。
「はい、ここが職員室」
「すみません、助かりました」
「いいよ、全然。帰りは大丈夫?寮まで送ろうか?」
職員室の目の前までついたところで冗談めかしく笑った桐生先輩に「俺は別に方向音痴というわけじゃないですから」と少し頬を膨らめつつ返すと、彼は「ごめんごめん」とあやすように頭を撫でてきた。
完全に子供扱いされている。まあ俺の方が年下なのは確かなんだけど。
「とりあえず俺、先生に書類渡してくるので」
「ああ、そうだったね。じゃあまた、今度は迷うなよ」
ぱ、と手を離した桐生先輩は存外あっさりと去っていった。
段々小さくなる後ろ姿に「なんだか不思議な人だな」と思った。
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「だから俺がついて行こうかって聞いたのに」
結局寮に着いたのは十八時過ぎになってしまった。同室の阿久津ことあっくんは俺が絶対に迷うと見越してHR後に声を掛けてくれていたのだが、それを断った結果がこの帰宅時間だ。
「俺だってこんなに遅くなるとは思ってなかった」
「ふふ、でもまあお疲れ様」
いじけたような俺の態度にふ、と破顔したあっくんは温かいコーヒーを出してくれた。俺の好みを一週間足らずで完璧に把握したあっくんの淹れるコーヒーは美味しい。
ソファでマグカップを両手で持ちつつコーヒーを堪能していると、俺の隣に腰掛けたあっくんが微笑む。
「逆に二時間近くも何してたの?」
「猫と遊んだり、花見たり……けど、途中で二年生の先輩に会って、その先輩に職員室まで案内してもらった」
「ああ、自力で辿り着いたわけじゃなかったんだ」
あ、今ひょっとして俺墓穴掘った?
口を滑らせてしまったことになんとも言えない顔であっくんを見つめると「今度は俺がついて行ってあげるからね」と頭を撫でられた。
なんだか今日はよく頭を撫でられるなと思うと同時に、あっくんの手より桐生先輩の手は冷たかったななんてこともぼんやりと思った。
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なつき - 作者さん、どしたん? (2019年8月1日 21時) (レス) id: e36f276856 (このIDを非表示/違反報告)
ペコ - めっちゃハマりました!最新頑張って下さい! (2019年7月18日 0時) (レス) id: d6a2adbe5a (このIDを非表示/違反報告)
さくら - 更新してええええ泣 (2019年7月17日 16時) (レス) id: fdd612b178 (このIDを非表示/違反報告)
あんあんあんこ - けしからん!もっとやれ!(サーセン) (2019年7月14日 22時) (レス) id: 57bf108e06 (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 仙椿(せんつばき)さん» コメントありがとうございます!尊いだなんてそんな照れちゃいます( ¯///¯ ) 頑張ります、今後ともよろしくお願いします〜! (2019年6月30日 0時) (レス) id: 4a341f9b26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏蜜柑 | 作成日時:2019年6月8日 22時