帰り道 ページ4
.
『あれ？勝己まだ残ってたんだ。まっすぐ帰る？一緒に帰ろ』
入学初日の試練を越え、心身ともに疲弊した1年A組の生徒がほぼ下校したなか、昇降口を出たところでばったり勝己に出くわした。
本当は出久たちと帰ろうと思っていたのだが、下駄箱でクラスの女子と話しているうちに姿を見失ってしまい、一人で帰ろうとしていたところへふらりと勝己が現れたのだった。
Aの誘いに返事こそなかったが、いつものような拒絶もなかったので、無言を許可と取って勝己の隣に並んだ。
駅までの道のりを、特に何を話すわけでもなく歩く。
いつもならば視界に入る大半のものに難癖をつけている勝己だが、今日はどういうわけだか終始静かにしていた。
チラリと横顔を盗み見ると、真剣な表情で何か物思いにふけっているようだった。
初めは体力テストで疲れているのかと思ったが、Aや出久はともかくとして、勝己はたった8種目の技能テストで音を上げるようなヤワな男ではない。
(となるとーーーー)
やっぱりあれかな、とAは思った。
勝己がこうして考え込んでいることに、思い当たる節があった。
駅につき、改札を通ってホームへと続く階段を上がる。
重そうな勝己の足取りが、彼の心情を表しているようだった。
ホームに電車が入ってくる。
電車の到着による騒音と暴風のなか、Aが風に乱された前髪を直そうと手をあげたところへ、小さく勝己が「なあ」と言った。
電車のドアが開き、人々が列をなして降りていくのをぼんやりと見つめながら、勝己が言った。
「知ってたかよ。デクの個性のこと」
案の定、読みが当たった。
ずっと出久のことを考えているのだろうと思っていた。
きっと彼の脳内では、今日の出久のソフトボール投げの映像が何度も浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しているのだろう。
『…や、知らなかったよ』
Aが答えると、勝己は静かにそうか、とだけ言った。
「アイツーーー」
ーーー騙してやがったのか、俺らのこと。と言葉が続くかとは思ったが、勝己はそれ以上何も言わなかった。
まったく同じというわけではないが、勝己の考えていることがAにはよくわかった。
出久の個性を実際に目にしたのは、今日が初めてだった。
幼馴染である二人には何も知らされてはいなかった。
(出久のことで…)
知らないことなんて、ないと思ってたのにな。
寂しさに似た感情が、Aの胸をいっぱいに満たしていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 299人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
スカイ(プロフ) - コメ返してくれてありがとうございました！めっちゃ面白い...最高です！今後に期待します！ (2018年6月19日 20時) (
レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
卯月(プロフ) - スカイさん» 感想ありがとうございます！勢いで書きなぐっておりますが、楽しんでいただけたようで嬉しいです＾＾ (2018年6月17日 23時) (レス) id: 23b7097a95 (このIDを非表示/違反報告)
スカイ(プロフ) - 本当に好みのシチュです！完結まで絶対見ますねー (2018年6月17日 19時) (レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
スカイ - 面白いです！頑張ってくださいね！ (2018年6月17日 16時) (レス) id: fe3517b453 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：卯月 | 作成日時：2018年6月13日 14時
