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 時は経ち、兄からテディベアのキーホルダーを貰った夏の日から3年後。
 Aは9歳になっていた。あの夏の日の兄と同じ年である。相変わらず学校へは通えず、けれど本は絵本から文字が主体の単行本や文庫本へ、そしておそらく通学の許可が下りないであろう故に受けさせても貰えないであろうが中学受験対策の参考書へと変わっていた。
 6月。梅雨の時期である。外はじめじめとした空気が漂い、連日のように雨が降っていた。そんなある日の週末のこと。

 「やあAさん、入るぞお」

 週末のため学校が休みの兄は、雨の日は午前中からAの部屋を(おとな)う。
 12歳になった兄は、中学受験はせず、地元の公立の中学に通うことにしたという。小学生ながらに学級委員や自治会単位の活動などを精力的に行っていた兄は大変な人気者であり、頼りがいのある人として多くの者に認識されている、らしい。Aからしてみれば、兄が何故どのように評価されているかについては知ったことではないが、兄が褒められるのは純粋に嬉しい。自慢の兄に変わりはないからだ。

 「はい、どうぞ〜」

 文机に向かっていたAは、少し声を張り上げて答えた。

 「はあい、お邪魔しまあす……☆ うん、今日も元気そうだなあ!」

 「……♪」

 わしわしと頭を撫でられて、Aは目を細める。兄に頭を撫でられるのは嫌いではない。

 「どれどれ? ほおう、今日は算数なんだなあ」

 「そうです〜。掛け算の筆算を……」

 「ふむふむ、Aさんは字が綺麗だし書くのも早い、とても良いなあ! よおし、兄さんが答え合わせしていってあげよう」

 「あっ、それはとってもありがたいですね〜。手間が省けます……♪」

 幸い、文机は十分に大きい。Aが文机の片端に寄ると、兄はちょうど斜め向かいに座った。

 「赤ペン、これです」

 「お、ありがとうなあ」

 Aの鉛筆が紙面にサリサリと擦れる音。そこに、兄の赤ペンのシャッという音が入る。外はサアァと雨が降り続けている。
 そうして暫くしてから、兄は赤ペンを置いた。

 「……俺も教材持ってくるかなあ。どうせ宿題もあることだし。ちょっと取ってこよう」

 「はぁい……♪」

 兄は立ち上がって部屋を出て行った。その後ろ姿を見送りつつ、Aはここ最近考えていることをぼんやりと思い返していた。

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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/  
作成日時:2020年6月13日 0時

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