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 十字架の前に人々が列を組んで跪いているのが見えた。けれど、そう経たないうちにあの笛の音が鳴り、列車はもう動き出していた。十字架のある方には銀色の霧が流れてきて何も見えなくなり、それから暫くして急に霧が晴れた。けれどその時にはもう十字架はだいぶ後ろへ行ってしまっていて、その形がぼんやりと見えるだけだった。

 「俺たちはどこまで行けるんだろうか」

 不意に千秋が言った。

 「さあね。だけどもうすぐ僕も千秋も、それからAちゃんも消えると思うよ」

 英智が笑った。

 「ほらあそこ、石炭袋だ、そうだろう」

 英智が指差した方には、たしかにぽっかりと星も何もない黒い空白が浮かんでいた。

 「……本当に、何もないんだな」

 千秋の声が少し震えていた。

 「そうだね。道しるべも何もない、だけど人生ってそんなものだろう。僕はもう行かないと。ワタルが呼んでいる」

 それだけ言って、英智が立ち上がった。

 「どこへ行くんだ、***」

 「どこへって、千秋だって分かっているだろう?僕たちには帰るべき場所がある。その声に答えずして、ヒーローとは言えないだろう?」

 「……」

 「僕はヒーローじゃないけれど、それでも呼ばれているから行くよ。そうして、現実の世界で会おう。Aちゃんもいつか会いに来てね」

 それだけ言って、英智は通路を進み、消えていってしまった。Aも千秋も彼の後を追うことはできず、ただ黙ってじっと席に座っていた。

 「……聞こえるか?呼び声が」

 千秋が囁くように尋ねた。

 「いいえ、何も」

 Aは首を振った。

 「だけど……」

 「うん?」

 「何だか、あたたかい気がします」

 Aは微笑んだ。何だか、柔らかく優しいものに手を包み込まれているような感触があった。

 「そうか」

 千秋が小さく笑った。

 「お前も帰るべき場所へ行けよ。そしていつか、また会おう。ヒーローとの約束だ」

 「ヒーロー?」

 「そう、俺は真っ赤に燃える正義の炎、流星レッドの***千秋だ!応援、よろしくな」

 突き出された千秋の小指に、Aも自分の小指を絡ませた。

 「約束、いいですね」

 「ああ、いいものだろう。俺も小さな頃はこういう約束に憧れたものだ。今は約束を守れる身体になったからな、俺もきっと約束を守るぞ!……まぁ、最初はちょっとアレだが」

 それから、おおキリュウか、という言葉を残し、千秋の姿はふっとかき消えた。

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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/  
作成日時:2020年6月13日 0時

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