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その大きな火の向こうの3つの三角標はちょうどさそりの腕のようだったし、こちら側に並ぶ5つの三角標もさそりの尾やかぎ針のようだった。さそりの火は音もなく明るく輝き、それから列車が動くにつれどんどん遠ざかっていった。
「でもね千秋、そんな生き方は誰も望んでいないんだよ」
英智がぽつりと、本当にぽつりと零すように言った。
「うん？何の話だ？」
「いいや、何でもないよ」
それから賑やかな音楽や草花の香り、人々が口笛を吹く音やざわざわいう声やらがかすかに聞こえてきた。それはだんだん近づいてきていて、町に近づいていてそこでお祭りをやっているのが分かった。
「ケンタウル露をふらせ」
誰かが叫ぶ声がした。青々と茂る大きな木の中に、たくさんの電球がついていた。
「今日はケンタウル祭ですから。ここはケンタウルの村ですよ」
また誰かが言った。
「よく分からんけど露をふらせ！」
レオが叫んだ。
「ケンタウルス座なら俺も分かります。たしかにさそり座の近くにありますよね」
つむぎが言った。
「そうだ、良かったら地図を見るか？」
千秋があの地図を差し出した。羽風夫人から英智に、それから千秋に渡った、あの黒曜石でできた美しい地図だ。
「いいんですか？」
「何なら持って行ってくれ。俺たちは持っていかれないからな」
千秋の言葉につむぎは少し表情を曇らせ、それでも嬉しそうに地図を受け取った。
「ありがとうございます」
「礼はいらんさ」
「餞別ってやつだな！」
レオが言った。サザンクロスはもうじきだった。
不意に、様々な色の光が集まって白く輝く大きな十字架が前方にすっと立った。その上には青白い雲が丸い環になりかかっている。北十字の時のように乗客が次々に立ち上がり、あちこちから祈る声が聞こえた。喜ぶ声や何とも言えぬ深いため息、それから「ハレルヤハレルヤ」という明るく楽し気な声。
そうしてまたシグナルや転轍機を通りすぎ、終点の停車場に到着した。十字架のちょうど真向かいだった。
「降りよう、オバちゃん！ここが俺たちの終着駅だ！」
レオが叫び、つむぎの手を握った。
「それじゃあみなさん、さよなら。短い間ですけどありがとうございました、楽しかったです」
「おれも楽しかった！そっちの世界のおれたちをよろしくな！」
さよなら、さよならと言い交わし、それから二人は振り向くことなく列車を降りていってしまった。
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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……！！)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (
レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております！自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います！これからも更新楽しみに待ってます！ (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Chris | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時：2020年6月13日 0時
