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「『至れり尽くせり』、ですね？」
「もちろんだとも。兄たる者、可愛い妹のためなら何だってしてあげないとなあ」
兄はにっと笑った。
「せっかく祭りの雰囲気を味わってもらうなら、最後まできっちり楽しんでもらわねばなあ。あ、わたあめ食べるのを中断するなら、このプラトレーを使うように(と、プラスチックトレーを文机の上に置いた)。そうそう、喉渇くだろうからジュース……いや、わたあめは甘いから普通にお茶かなあ？ とにかく、しっかり水分補給するんだぞお」
「分かってますよー」
じゃあ俺は戻るぞお、と兄は部屋を出ていった。
Aは食んでいたわたあめをプラスチックトレーに乗せ、麦茶の入ったピッチャーを傾けてコップに注いだ。よく冷えていた麦茶は少しぬるくなっているが、喉を潤すにはちょうどいい。
ふわふわで甘いわたあめは、口の中ですっと溶けていく。今頃兄はまた祭りの喧騒へ戻っている道中であろう。戻ったら、また屋台を手伝って、ちょっと踊ったりして。もう暫くしたら花火が上がり始めるだろう。家からは花火は見えないが、音くらいは聞こえるはずだ。空も多少は明るくなるかもしれない。
そんなことを思いつつ、書き取りの練習に戻る。四半刻ほど経った頃、ひゅー、どどーんという音が聞こえた。花火だ。
Aは部屋の電気を消し、残っていたわたあめと麦茶のコップを持って、窓を開いた。夏の蒸した熱気が部屋へ流れ込んでくる。空調も落とすと、じっとりとした暑さが部屋を支配し始めた。わたあめのべたつきも増してきている。ぐいっと麦茶を傾け、花火の音と空の色に意識を向けた。
ひゅるるるる、どーん。ひときわ大きな花火があがったのらしく、空に散る火花の端が見えた。
スマホが震え、着信を報せた。見ると送り主は兄。動画が送られていた。
＜花火だぞお。いや綺麗だなあ……☆＞
「こっちはあとで見ることにして……今はあっちですね……♪」
幾つもの花火の音がする。そのたびに誰かが歓声をあげるのが何となく聞こえる。多くの人々の興奮が、少なからず伝わってくる。
半刻ほど経った頃だろうか。
ひゅるるるる……ばばばばば。花のような形の花火があがったのか、束の間絶えず小さな破裂音が響いたかと思うと、あたりはしぃんと静まり返った。
「花火、終わりですかね……？」
Aは窓を閉め、電気をつけて空調を入れ、食べ終わったわたあめの串とプラトレーをゴミ箱に放り込んだ。
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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……！！)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (
レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております！自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います！これからも更新楽しみに待ってます！ (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Chris | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時：2020年6月13日 0時
