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 淡々と語るつむぎの口調には、「死にたくなかった」などといった思いは感じられなかった。ただただ、才能ある友人を死なせてしまったことへの悔いだけが滲んでいた。

 「……君は、死んで良かったの」

 英智が尋ねた。

 「俺ですか?そりゃあ、俺は自分自身に大した価値がありませんから。面倒な役回りは出来るだけ引き受けたいし、今回の件だって犠牲になるのは俺ひとりが良かったんですよ。他の子たちを、特にレオくんを死なせて自分が生き残るなんてとんでもないことです。それに俺だって、肉体は完全に死んだ訳ではありません。他の誰かを生かすために、俺の肉体は生きています。だからまぁ、ええ……そんな感じですね。反乱を起こしておいて何を言うんだって感じですけど、俺は自分の運命に納得していたんですよ。何者でもない俺が役立てることがある、しかもそれは生まれ持った使命ですらある。それは俺にとっては『ほんとうのさいわい』そのものでしたから」

 車内では、小さな祈りの声が上がった。それは他者に利用され夭逝した2人のためでもあったし、2人以前の犠牲者のためでもあった。

 「何が幸せか分からないです。本当にどんな辛いことでも、それが正しい道を進む中での出来事なら峠の上りも下りもみんな本当の幸福に近づく一足ずつですから」

 近くに座っていた人のひとりが言った。

 「そうですね。『ただいちばんのさいわい』というのに至るために、いろんなかなしみもみんなおぼしめしというやつなんでしょう」

 諦めたような顔でつむぎが笑った。その頃には、レオはもう座席で千秋に寄りかかって眠っていた。

 「あはは、本当に猫みたいだ。僕たちの知る***くんともさして変わらないんだね」

 「ああ、そうだな」

 千秋の言葉は少ない。誰かのために犠牲になった2人に、2人を犠牲にした彼らの世界に悲しみを抱いているのだろう。
 つむぎとレオは、いつの間にかその足に白く柔らかな靴を履いていた。それは、2人がもう地上へ戻ることはないという証明でもあった。
 列車は煌びやかな燐光の川沿いを走っていく。窓の向こうの野原には、いくつもいくつも大小様々な三角標が見え、その中でも特に大きなものの上には赤い点を打った測量旗も見える。野原の果ては旗が集まって青白い霧のようで、それよりももっと向こうからは様々な形のぼおっとした狼煙のようなものがかわるがわる上がっている。吹き込む風は、薔薇の甘い香りがしていた。

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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/  
作成日時:2020年6月13日 0時

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