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Aも英智に倣って手を銀河に伸ばしたが、体格のためか全く届く気配がしない。
「嬢ちゃんや」
その時不意に声がかかった。顔を上げると、3人の傍にはいつの間にか、船に乗った青年がいた。渡し守だろうか。黒い髪、赤い目、病的なまでに白い肌、酷く特徴的な見た目の青年だ。
「良かったら少しばかり乗っては行かんかえ?特別にロハで乗せようぞ」
「……?」
見た目の割に妙に古風な話し方だ。意図を汲み取れなかったAが首を傾げると、青年は慌てたようにこう言った。
「ああ、無理にとは言わんよ。乗せると言っても、岸につないだままになるじゃろうて。何せ嬢ちゃんたちは列車の時間があるからのう」
「ええと……君は、サクマくん?」
英智の問いに、青年は首を傾げた。
「はて、サクマとな……?我輩はしがない鳥の化身じゃよ。かささぎが人型をとっているだけじゃ。まぁおぬしらが我輩をサクマと呼びたいのであれば、好きに呼ぶが良かろう。何せ我輩に名前はないからのう。名無しの権兵衛じゃ」
くっくっと青年は笑った。
「ロハってことはタダなんだろう。ここはお言葉に甘えて乗せてもらおう!」
千秋が言った。Aも頷いた。
「君たちが乗るなら僕も」
英智が言った。
「よし、ではゆっくり乗り込むんじゃ。あんまりに揺らさんようにな」
青年は岸にしっかりと船をつけた。まず千秋が、次いでAが、最後に英智が乗り込んだ。岸につながれたままの船は、僅かな波に揺られて、ふわりふわりと水面を漂っている。
「さぁ、どうかのう?天の川を覗き込んでごらん」
かささぎの青年の言葉に従い、Aは慎重に天の川を覗き込んだ。白く小さなきらきらとした粒がゆらゆらと揺らいで見える。粒自体は星だからか、流れている様子はなかったが、天の川は川というだけあって、水のようなものが流れていた。
……本当に水だろうか?思い切って手を伸ばし、水面に手をつけてみる。更に伸ばして、水面下へ手を潜らせた。手がすっと濡れる感触があった。今までに手を入れたどの水よりもなめらかで、しんと冷たいのに刺すような冷たさではない、不思議な感触だった。
「昔、銀河の水が水銀だなんて言い張る男もおったのう」
かささぎの青年が言った。
「そうなのか?」
「そうじゃ。銀河の水は、『たしかにあってたしかにない』ものであって、決して水銀ではない。本当に水銀なら、鳥をさらす訳にもいくまいよ」
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Chris(プロフ) - 冬枯さん» コメントありがとうございます。嬉しさで机殴りながら返信打ってます(だって初コメ……初コメ……!!)。遅々として進まない筆で申し訳ありませんが、少しずつでも更新してまいりますので今後もお楽しみいただければ幸いです。 (2020年8月21日 20時) (レス) id: 313ba381d4 (このIDを非表示/違反報告)
冬枯(プロフ) - 楽しく読ませて頂いております!自分も友達から勧められ、新シリーズから始めた者です。流星の篝火は無理です。本当に無理。良い話すぎて泣きます。良さの反動と言えど、文を紡いでいくのはすごいと思います!これからも更新楽しみに待ってます! (2020年8月21日 19時) (レス) id: ec10afebdf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Chris | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/chrisinfo/
作成日時:2020年6月13日 0時