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Case.35 ページ43

ソファに座った秀一が、ふーっと長めに煙を吐き出す。

「…それで?」

そのソファの端っこで膝を抱えて、私はぼそりと返事をした。

「……絶品の和食フルコースを振る舞われた上にベッドを譲られて寝かしつけられた…」


私はなんで秀一にこんな尋問を受けているんだろう…。


「それから?」
「う…起きてこの状況に混乱したから、こっそり逃げ帰ってきた…」

「安室君は?」
「…ちょっと離れたとこで寝てたから、そのまま…」

「…彼相手にそんな芸当ができるのはお前くらいだろうと思うと、彼のことが可哀想でならんよ」

今度は煙のかわりに長いため息が吐き出された。

「そもそも、彼相手に保留など意味がないだろう。嫌なら断ればいいものを…何故そんな返事をしたんだ」
「それは自分でも思ってる…」

だからこそ、起きたら何をされるか分からないと思って逃げてきたんだから。

「うう…しばらくポアロの方は出歩かない…」

元々行動範囲は狭い方だし、それくらいなんとかなるはず。

「…まぁ、決めるのはお前だ」

秀一は立ち上がると、私が放り出したジャケットとバッグを拾い上げる。片付けてくれるつもりらしい。

「…A」
「…何」

なんだろう、まだ言い忘れたお小言があるんだろうか。
ちらりと目線をやると、秀一は持ち上げたジャケットのポケットを探っていた。

「お前、IDカードはここに入れてなかったか?」
「……へ、」

秀一が言っているそこは、確かにIDカードが入っていた場所で。

「あれ、そういえば…」

零に見せたあと、どこにしまったんだっけ?
記憶を遡って、遡って、…遡っても返してもらった記憶がない。

「あ……うそ……」

やられた。
秀一は、私の様子から何があったのかを察して小さく笑った。

「やはりこの手の事に関しては、彼の方が上手のようだ」
「ひえ…」
「こればかりは諦めろ」

引導を渡されて、がっくりと項垂れた。


泣きたい。


◇◇◇


そろりとドアを開けると、いらっしゃいませ、と女性の声が聞こえた。

「あ、貴方は!」

パッと明るくなった笑顔が眩しい。貴方は、の後には何も続かなかったけど、なんと言おうとしたのかは聞かなくても分かる。

「九条Aよ。そういえば、この前の事を謝ってなかったわね。迷惑をかけてごめんなさい」
「いえいえ、気にしないでください!こちらの席にどうぞ!」

愛想笑いで自己紹介すると、彼女はカウンター席を強く勧めてきた。
違う、私は客として来たんじゃない。

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胡蝶(プロフ) - カイさん» コメントありがとうございます!キャラクターの“らしさ”の部分は結構気にして書いているので、気づいて頂いてとても嬉しいです!更新頑張ります! (2022年5月19日 23時) (レス) id: 1da46a4e4a (このIDを非表示/違反報告)
カイ - えええ…素敵すぎて今日初めて拝見したんですけど、全て見終わっちゃいました…。キャラクターの性格をよく噛み砕いて書いてる印象を受けました。コナンファンには絶対読んでもらいたいー! (2022年5月19日 0時) (レス) @page35 id: 6aad3c552e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月18日 2時

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