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Case.6 ページ8

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その時は唐突にやってきた。


「安室さんって、彼女いないんですか?」

喫茶ポアロのバイト中、客がいないのをいいことに、先輩の梓さんが振ってきた突然の話題。

「ええ…残念ながら」
「えーっ、嘘!」
「本当ですよ」

眉を下げて困ったように笑えば、梓さんは納得いかないとばかりにジト目を送ってくる。
本当なんだがな…。
笑顔でその視線を躱しながら、手持ち無沙汰を誤魔化すように濡れ布巾を持ってテーブルを拭きに行く。

「じゃあ、好きな人は?それもいませんか?」
「梓さん、僕の恋愛事情なんて聞いてどうするんです…?」

確かに僕は童顔で通っているが、だとしても三十路を目前にした男の恋愛なんて面白くもなんともないだろう。

「何言ってるんですか!JKに大人気の安室さんだから気になるんですよ!それに、もし安室さんに彼女ができたら、彼女さんも炎上で苦労しそうだし。…分かり合えるかなって」
「ご迷惑をおかけしてすみません…」

これには謝るしかない。梓さんに危害が及ばないよう立ち回ってはいるが、SNSの心無い言葉は止めようがないのが現状だ。

「あ、気に病まないで下さいよ?安室さんが悪いわけじゃないですし。まぁ、たまに言動には注意してほしい時がありますけど」
「…気を付けます」

殊勝に頷くと満足したのか、梓さんからよろしいとお許しが出た。

「…で、好きな人はいないんですか?」
「あ、戻るんですね…」

上手く話が逸れたかと期待したが、どうやら甘かったらしい。きらきらと輝く瞳は、何を言っても逃がしてくれそうになかった。

「そうですねぇ…」

考えるそぶりを見せると、梓さんはうんうんと頷いてにじり寄ってくる。
こういう話をする時の梓さんは、本当に驚くほど鋭いからな…。
嘘を言ってもいいが、そんなことをすれば釈然としない顔で睨みつけられることになるだろう。
ここはひとつ、本当の話をしてみるか。

「いますよ」
「え!本当にいるんですか!?」

きゃーっと嬉しそうな悲鳴を上げて、どんな人なんですかと畳みかけてきた。

「…無愛想なんですけど、猫みたいに気まぐれな人でした」

そう言って、脳裏に彼女の姿を思い起こす。

久しぶりだな…彼女の話をするのは。

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胡蝶(プロフ) - カイさん» コメントありがとうございます!キャラクターの“らしさ”の部分は結構気にして書いているので、気づいて頂いてとても嬉しいです!更新頑張ります! (2022年5月19日 23時) (レス) id: 1da46a4e4a (このIDを非表示/違反報告)
カイ - えええ…素敵すぎて今日初めて拝見したんですけど、全て見終わっちゃいました…。キャラクターの性格をよく噛み砕いて書いてる印象を受けました。コナンファンには絶対読んでもらいたいー! (2022年5月19日 0時) (レス) @page35 id: 6aad3c552e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:胡蝶 | 作成日時:2022年5月18日 2時

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