#29 ページ29
spring moon #29
もしかしたらまだ居るかもしれない、そう思い
慌てる様にエレベーターの開閉ボタンを押し込
んでは狭い空間から抜け出した。
オートロック式の鍵を開けてベランダへと身体
を乗り出せば、雪の中を寒そうに歩いて帰る彼
の後ろ姿が見えた。
今声を掛けてしまったら、また彼を帰したくな
いなどと思う事は目に見えて分かっていた。
けれど、大きな背中を丸めて歩く姿を見ている
と黙って居られなくなってしまうのだ。
「ダニエルくん！」
近所迷惑にならない様に、なんて大きな声を出
していたら意味などないけれど今は少しだけ。
私の声に反応した彼は勢い良く振り返ってから
両手いっぱいに手を振った。
まるで風を切る様に振られた手が遮っているの
か、ポツポツと降っている雪は彼の周りだけ遮
断されている様にすら見えた。
「風邪引くから入って、身体冷えちゃうよ」
身振り手振りで寒さを表現するかれは、その場
でぴょんぴょんと飛び跳ねながら笑顔を振りま
いた。
子犬の様な仕草に可愛らしいなんて思っては、
彼の笑顔が自分にだけ向けられているという事
実に笑みを洩らした。
その距離が今まで極端に遠かった訳ではないけ
れど、それでも数日間でより一層近付いた距離
は私達の関係を幾分大きく変えている様だった。
「明日もカフェ、行くから...」
「待ってるよ」
見えなくなるまで、時折振り返りながら歩みを
進めて行く彼に手を振り続けた。
待ってる、そう言った彼の言葉を思い出すだけ
でこんなにも胸がぎゅっと締め付けられてしま
うだなんてどうかしているのだろうか。
数週間前までカフェに通っているだけで、彼は
カフェの店員で、なんて思い返していたら全く
キリなど無い。
彼の姿が見えなくなった事を確認し直してから
私はカーテンを潜って部屋の中へと入った。
幾分身体は冷えてしまっていたが、彼の事を考
えている今は顔だけが幾分熱い様な気がする。
ふわりと吐息を漏らしてはリビングに置かれた
ソファに身体を投げ出して沈めて見せた。
遠くの方を見つめていても頭の中には彼が居る
だなんて、あの頃の私には考えられもしない事
だと言えるだろうか。
けれど、彼と顔を合わせて会話を交わす度にど
んどん惹かれて行くのだ。
彼の言った言葉を思い出すと知らない間に顔が
綻んでいるだなんて。
クッションに顔を埋めながら、やはり彼の事を
考えては頭を悩ませるのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 155人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
choi(プロフ) - maryさん» ジソンオンマタイミング！笑 母性本能全開のジソンさんにはオンマ的ドジも頑張ってもらわないと、と思いましてヽ(´o｀；にしても我ながら今のタイミングはちょっと！ですヽ(；▽；)ノ (2018年9月12日 19時) (
レス) id: 3ac3189961 (このIDを非表示/違反報告)
mary(プロフ) - あああああ！！ジソンオンマー( ＴДＴ)今は声かけちゃダメー( ＴДＴ)笑 (2018年9月12日 12時) (レス) id: d75f5942a5 (このIDを非表示/違反報告)
mary(プロフ) - ぜひ！！ぜひその番外編読みたいです！！( *´艸) (2018年9月12日 12時) (レス) id: d75f5942a5 (このIDを非表示/違反報告)
choi(プロフ) - maryさん» ジェファンとの絡みに反応下さるのmaryさんだけなので、密かに凄く嬉しいです！笑 番外編でダニエルくんとジェファンのお話を書こうかな...なんて思っちゃいますヽ(´o｀； (2018年9月12日 11時) (レス) id: 3ac3189961 (このIDを非表示/違反報告)
mary(プロフ) - ジェファンとの絡み待ってましたー！！やっぱりダニエルくんとジェファンくんの絡み大好きです(*´∇｀)もうウジンに何されたんだ！！笑 (2018年9月11日 23時) (レス) id: d75f5942a5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：CHOI | 作成日時：2018年7月9日 16時
