spring moon

#04 ページ4

spring moon #04

「あ、名札...早とちりでした、すいません」

「いえ...昨日はラテありがとうございました、
凄く美味しくて」

「だから今日はラテにしてくれたんですか？」

「はい、ダニエルさんのおかげでアメリカーノ
から抜け出せそうです」

「わ...出来次第お席にお持ちします！」

「お願いします」

ふにゃふにゃと微笑んだ顔が可愛らしくて何だ
か面白い人だなぁ、なんて思いながら注文を済
ませて何時もの窓際にある席へと向かう。

着て来ていたコートを脱いで鞄と一緒に隣へと
置いてから腰を下ろす。

身長の高い木材で出来たスツールチェアがこの
カフェの中で一番気に入っている所だとすら言
える。

何せ他の店舗とは違い人も少ない上に落ち着い
ていられる雰囲気が堪らなく好きなのだ。

生憎土曜の今日は午後からしか授業がない為、
お昼過ぎまではこうしてのんびりしていられる。

そう考えたら来るのが早過ぎただろうかと思わ
ず苦笑を洩らしてしまうが、参考書を開いてい
るうちに時間など直ぐに過ぎてしまうだろう。

などと考えていると、私と同じ様に底が濡れた
ままのスニーカーを履いているのだろうか。

音を鳴らしながらこちらに向かって歩いて来る
足音に自然と笑みが溢れた。

「お待たせしました、ご注文のラテとフルーツ
サンド...おまけのチョコクッキーです」

伸びて来た腕に窓の外に向けていた視線を戻せ
ば、ぱちりと彼と目が合ってしまう。

近くで見ると余計に整った顔立ちがはっきりす
る、なんて考えながらこじんまりとお皿に乗せ
られたチョコクッキーに目を向けた。

「何だか昨日と言い申し訳ないです」

「いつも来て下さってますから...あ、あの名前」

「あっ、私はAです」

カフェの店員さんに向かって名乗るだなんて変
な気分だと、ちょっぴり恥ずかしくなってしま
うけれど彼も常連さんの様な事を言ってくれて
いるのだし、名前くらい良いだろうか。

「Aさん」

「はい」

「いや...ゆっくりしていって下さい」

照れ臭そうに微笑みながら行ってしまう彼を見
て、やはり不思議でいて何だか魅力に溢れてい
る人だなぁなんて口元を緩めて見せた。

昨日と変わらず甘くて良い香りのするラテに加
え、フルーツサンドとチョコクッキーの香りが
鼻を掠めて消えていく。

どうやら私は、このカフェのラテに胸を打ち抜
かれてしまった様だ。

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