【本編小説】この夏は君と。 (ページ12)

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◆夏の報せ[里村水月] ページ12

「はぁ……」

　暑いなぁ、と僕は呟いた。

　もう六月も終わるのに、都会ってのはどうしてこうも暑いかな、と呆れながら席を立つ。

　ちょうど勉強も切りの良い所までしたし、休憩がてら涼むか、くらいの気持ちで部屋を出た。

「なーんか冷たいもの無いかな……」

　一人で留守番しているのを良い事に、キッチンを適当に漁った僕は、アイスバーを片手に廊下を歩く。誰にも見られていないと、人目を気にする必要が無いから落ち着く。特に僕のような、常に周りの顔色を伺って生きているような人間なら尚更だ。

「外も暑そうだなー……」

　家の前を通るアスファルトの道に、容赦なく照りつける日光が、窓ガラスに反射して眩しい。かと言ってクーラーを点けるほど猛暑日でもない微妙な蒸暑さに、僕はため息をついて、ふと郵便受けを確認し忘れていた事を思い出した。

「やべっ……」

　学校では絶対に口にしないような台詞を思わず呟き、僕は慌てて玄関から外に出た。親に、これしといて、と言われた事は、きちんとしておかないと。そういう所は真面目で通っているのだ。

「って言っても、多分、無いだろうけど……」

　インターネットが普及しているこの時代、やり取りはほとんどメールやSNSなどで事足りる。ネット通販で頼んでいる物も特に無いし、どうせ何も入ってないだろうな、と思っていた僕だったが、手の平の上に滑り落ちた封筒に、思わず舌打ちした。

「面倒臭い……」

　よりにもよって僕宛てだ。今時、文通する奴がいるのか、と半ば意外に思いながら、アイスバーを口に咥える。空いた両手で少しだけ乱暴に封を破くと手紙と一緒に数枚の写真が零れ落ちて来た。

「……え……綺麗な所だな」

　珍しく綺麗な本音が出て来て、笑ってしまう。暑いのは面倒だが、夏は嫌いではない。僕は玄関先に腰掛け、少しわくわくするような気分で手紙を読んだ。

「……これ……」

　封筒の中に、最後まで零れ落ちずに残っていたのは、同じように綺麗な鍵。

「……ぴったりかよ。本気で僕の事を選んでるのか」

　ソーダ味のアイスバーと鍵を見比べて、似てるなぁ、なんて僕は思う。
　適当に選んだアイスなのに、随分と運命的な事もあるものだ。

　夏を控えた今日の大空は、まだ青とは言い切れない、淡い水色に輝いていた。