警報、その18。 ページ21
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──別に、もやもやしてるとかそんなんじゃない。
「治くん、この間の試合ほんまにかっこよかった!」
「大声で応援したんよ、気がついた?」
もやもやなんて、してない。ただ、ずっとこんな風に絡まれている治くんにほんの少し同情しただけだ。
木曜日の昼下がり、どうしても眠気に抗えなかった私はいつも一緒にお昼ご飯を食べている友人にことわってひとり机で仮眠をしていた。
こんなに眠いのは久しぶりで10分くらい意識を手放していたけれど、気がつくと目の前の席の治くんは数人の女の子に囲まれていて。
この前の試合、というのは多分、私も観戦に行った練習試合のこと。そういえばこの子たち、ギャラリーでも結構目立ってたな。
私は居心地が悪くて顔を伏せたまま会話に耳を傾けた。
「すまんな、気が付かなかったわ」
スン、とした声。治くんはまるで興味がないようにそう言った。
侑くんは女子のキャーキャー攻撃に対して満更でもなさそうな顔(ただし試合中は除く)だけれど、治くんはしつこい子に対しては割と冷たい。角名くんなんかは返事をしない時もあるらしいけど。
「治くん、次の試合っていつ?もう決まっとる?」
「別に」
「決まったら教えてな、また応援行くから!」
「ありがとさん。ほら、もう行けや。昼休み終わるで」
つ、冷たい……私に向ける時の声と全く違うトーンに、部外者である私が戸惑ってしまう。でも私が起きる前ということだからかれこれ五分以上は付き纏われてるんだろうな、そう思うとうんざりする気持ちもわかる。
もう行けや、なんて言われてもなお女の子たちはそこをどく気配がない。猫撫で声は耳触りが悪い。
「なーあ、治くん……」
「やから、もう行けや言うとるやろ」
女の子の呼びかけに、治くんは一層厳しい口調でそう言った。
「Aちゃん寝とるやん、疲れとる人のそばでそないにでかい声出すなや」
………え。びっくりして顔をあげそうになったがギリギリでとどまった。危ない。きっと女の子たちは私の方に目線を向けている。
「う、ん」
「もう行くて、またな、治くん……」
気まずそうな雰囲気の残して、私の横を通っていく足音が数人分聞こえた。きっとみんな、治くんの圧に負けてしまったのだろう。
しばらくして顔を上げると、治くんのはいつも通りの穏やかな顔。
「おはよお、Aちゃん」
「お、おはよ……」
聞き耳を立てていたなんて言えず、にこりと笑い返した。
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冬咲(プロフ) - いすみさん» そんな嬉しいお言葉をいただけるとは…!😭✨沢山きゅんきゅんしてくださって本当に嬉しいです! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
冬咲(プロフ) - 黒尾ファンさん» 完結まで読んでくださりありがとうございました🥲💖違う作品も是非楽しんでくださいませ〜! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
いすみ(プロフ) - まずは完結おめでとうございます!!!!もう一周したいと思います。まじでその辺の恋愛漫画よりキュンキュンしました。素敵すぎる作品をありがとうございます🥲❤️❤️ガチでLOVE。 (4月16日 22時) (レス) @page34 id: b9d4cbed9d (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - あまりにも、なまってもうて、すんまへん、、、。😭 (4月15日 21時) (レス) id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - 完結おめでとうございます。応援してました!!どうも、黒尾ファンです。この作品結構の間見てきたんやけど最高やね♡大好きやわ。違う作品も見てみるけん、これからも頑張り〜や。また一から読みますさかい。 (4月15日 21時) (レス) @page34 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬咲 | 作成日時:2024年3月26日 19時