chocolateのゆくえ《ars》 (ページ31)

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「雅紀」

「んー」

「好きだよ」

「…珍しいね、Aがそんなこと言うの」

「あ、ひどい」

「ふふ、うそだよ。俺だって大好き。ちょー大好き」

照れもせず真っすぐ私の目を見て言うもんだから恥ずかしくなって目をそらす。

あらぬ方向を向けた先で時計の針が深夜二時を回っていることに気が付いた。

まだ夜は色濃い。

雅紀は机に頬杖をついてこっちを見たまままだにこにこと笑っている。

それがどうにもくすぐったくて私はいそいそとホットチョコレートに口をつけた。

甘くてどろりとしたそれがのどを伝い落ちていく。

さっきまで触れていた甘い残り香を乗せたようなそれにまた胸の奥が温かくなる。

「雅紀」

「なに」

「呼んだだけ」

「そっか」

あまりにも不毛なやり取りをしながらもホットチョコレートと同じような甘ったるくて温かな時間は悪くない。

こんな時間を一緒に過ごせることなんて本当に小さくて、なんでもないようなもので。

だけどきっと特別なもの。

名前を呼ぶだけで満たされるのも大好きだなんて言われて照れるのも全部あまりにもあたたかであいまいで不確かで、そしてとても心地の良いものとなって私を包み込む。

小さくて、くすぐったい、あたたかくて、あいまいで、ふたしかで、たしかにとくべつな。

そう、これをひとは、

「しあわせだね、雅紀」

「うん、幸せだよ」

そんなふうに、呼ぶんだろう。

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