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「んー、美味しい！今年が一番の出来」
「そうだな。また来年待ってる」
「来年はもっと中のチョコ溶かそうかなぁ」
「それだとフォンダンショコラじゃね？」
「あ、そっか」
今もこうしてAがガトーショコラを焼いているのは俺のせいなのだと自覚している。
飽きもせず毎年ガトーショコラを焼くAを作り上げたのが俺なのだと思うと、それは妙な甘くそして苦い熱になって身体の中を這いまわる。
苦しくて、熱くて、焼けて溶けてしまいそうなほどに。
俺がそんな想いと戦いながらこの日を過ごしていることを、きっと大人になった少女は知らないんだろう。
いや、知っているかもしれないが、とにかくAは必ず俺にガトーショコラを作りに来る。
繁忙期であろう店を早く退勤してまで。
「ねぇ和にい、今年のチョコは？」
「ゼロに決まってんだろ」
「ふふ、可愛そう」
Aが小さな口の口角を上げて笑う。
薄い唇は奇しくも俺に似ていると相葉さんがよく言っていた。
「和にい顔はいいのにどうしてチョコもらえないんだろうね」
そりゃ断ってるからに決まってんだろ。
「さぁな、俺が知りたいわ」
お前は知りもしないだろうけどな。
「義理もなし？」
それも断ったつうの。
「なしだよ」
他でもない誰かさんのガトーショコラのために。
「ふふ、そっか」
だってそうすれば俺の義妹は、それはそれは嬉しそうに笑うのだ。
「かわいそうな和にいにバレンタインチョコあげないとだもんね」
Aがこうなったのは俺の責任である。
「泣けてくるな。来年もお前のガトーショコラか」
だから俺は、男としてその責任を取り続けなければならない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
