１０９ 〜S〜 ページ29
仕事が終わり時計を確認すると19：30…。
車に乗り込んだ俺に、
「若。A様の元に向かわれますか？」
早めに仕事が終わったとあって潤がそう言うも…
「…いや…いい。」
今は少し距離を置いた方がいいだろう…
というのは建前でしかなくて、ただどんな顔をしてAに会ったらいいのかわからないだけだ。
俺は悪い事したって自覚はないんだけど、何となく気まずくて…。
「それにしてもよかったですね。」
「あ？」
俺とAがケンカというか、上手く噛み合ってないっていう事に気づいてるはずなのに、何がいいのか。
「若を前にするだけで真っ赤になってたA様が若とケンカするくらい若に気を許してるんですから。」
確かに…物は考えようだな。
「私は彼女は色んな意味で一筋縄ではいかない女性だと思いますけどね。」
「…どういう意味だ？」
「天然で純真無垢なのは素でしょう。だからと言って守られてるだけのか弱い女性でもない…。」
「…。」
「計算してるわけじゃないから余計にタチが悪い。天性で男を振り回す小悪魔…とでも言いましょうか。」
潤が言いたい事がわからなくもねぇけど…。
「そんな女の子に経験豊富ないい大人の男が振り回されてるのを側から見てるとどんなテレビを見るよりも滑稽ですけどね。」
「お前…俺をディスってるだけじゃねぇか。」
ガツンと運転席に蹴りを一発。
「若だけじゃないですよ。もうひとりいるじゃないですか。」
何が面白くてクツクツ笑うのか…
つーか…
「あんなシスコンバカ兄貴と一緒にすんな！」
「いや。私の中ではお二人は同じカテゴリーの方ですね。」
「断じて違う！」
ガツガツと運転席を蹴るけど、スルーして潤は車を走らせる。
俺もまだ命は惜しいから、本気で運転の邪魔をする事はしないけど。
「これからずっと一緒にいる覚悟はなさっているのでしょう？」
「…あぁ。」
「でしたら若の性格にA様も多々イライラするでしょうし、ケンカなんてしょっちゅうですよ。」
「潤…お前なぁ。さっきから言いたい放題ディスりやがって。」
「仕事の私と違って、A様は我慢なさる必要もないんですよ？今は離婚は珍しくありませんし、あのお兄様が喜んで引き取る事でしょう。」
「お前…何が言いたい？」
「私が申し上げたいのは、お互い思いやりを持った上で言葉で伝え合う事が大切かと。」
確かに…
俺とAにはお互いを知る時間ってのが圧倒的に少ないもんな…。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
