６２ 〜N〜 ページ22
「和くん…？」
リビングのソファに座ってお茶を飲んでた俺に背後から可愛い声が聞こえた。
顔だけ振り替えると、ほっぺをピンク色に染めて大事そうにカサブランカを抱いているA。
その反対側の手は御曹司の手にしっかりと握られていて。
「櫻井さんとご飯食べに行ってきてもいい？」
照れたようにはにかんだ。
「おい…名前で呼べって言っただろ？」
「はい…でも…なんかちょっと恥ずかしくて…。」
ほっぺを更に赤く染めて御曹司を見上げると、御曹司もその可愛いさにメロメロなのか顔をデレさせてる。
見つめ合う二人は御曹司が笑うとAも微笑んで…
その顔が恋する女の幸せな顔そのもので、俺もお役御免の時が来たんだって…
「あぁ。行っておいで？」
俺がAに対してこんな風に男と出掛ける事をあっさり許可する事を言う時が来るなんて…
「うん。ありがとう。行ってきます。」
嬉しそうに笑う満面の笑みは久々に見た。
この笑顔を引き出したのは、俺でも相葉でも智でもないんだって…
手を繋いだまま部屋を出て行く二人背中を見守り…
「和也様。どうぞ、お使いください。」
山岸が差し出したタオルに顔を埋めて、大きなため息を吐いた。
「…これで…いいんだよな…？」
「はい。」
そうわかってても、２０年来大事に大事にしてきた宝物を手放す寂しさは、ポッカリと胸に穴を開ける。
「娘を嫁に出す気持ちってこんななのかな？」
「そうでございましょうね。つまり和也様のお嬢様に対するお気持ちはずっと特別だって事なのでしょう。」
「うん？」
タオルから顔を上げると、山岸が寂しそうに微笑んでいて。
「家族愛って無償の愛でしょうから…。恋愛においての愛情はやっぱり見返りを求めてしまう…。」
「……ごめん…。」
そんな顔させてるのは紛れもなく俺の所為…。
「いえ…。私は最初からそのつもりで雇われるのですから…。」
「いや…もう…俺は俺の幸せ見つけねぇとな…。」
Aがそれを願ってる。
「とりあえず…。」
山岸に向かって両手を広げた。
「さーちゃん？今日はさーちゃんが傷心な和くんを慰めて？相葉にはここに近寄るなって言ってあるから、今すぐここで。」
確信犯的な笑みを浮かべて待つ。
「もぉ…和也様は…。」
何だかんだ、俺のこの笑顔に弱いよね？
小さなため息を吐いて呆れ顔だったけど、ソファに座る俺の前に跪き…
手を伸ばしてネクタイの結び目に手を掛けた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 18時
