４３ 〜S〜 ページ3
潤と共にやって来た二宮家。
朝迎えに来た時もひとりなら夜もひとりだ。
三人乗りの後部座席で手を伸ばした先には確かにAの綺麗で柔らかな手があったのに…
今ではあるのは微かに香るカサブランカの残り香だけ…。
潤が呼び鈴を鳴らして対応したのは、あの執事ではなくメイド喫茶にでもいそうな出で立ちのメイドの女。
「申し訳ございませんがお引き取りください。」
その女は誰かに俺らが来たらそう言えと命令されてるのかそれだけを繰り返す。
「A様とお話させてくださいませんか？お伝えしたい事があるんです。」
潤が誠心誠意そう伝えるも、やっぱり同じセリフだけが返ってくる。
「ですから！全て誤解なんです！若は『潤』」
それ以上はお前の口から言っていい事じゃない。
俺がAに伝えるべきだろ？
こんな事になったのなら尚更だ。
遮った俺を泣きそうな…
縋るような眼差しで見るから頷く。
ため息をついた潤に今度は電話が鳴る。
『失礼します』と潤が少し離れた場所で電話を取り、会話を始めた。
「お前…あのシスコン兄貴の女だろ？何の弱み握られてんだよ。」
「め、滅相もございません！わたくしなんかが和也様の…そんな事は絶対にございません！」
「あぁ〜…じゃぁ性 欲処理だけのオモチャ？その格好ってアイツの趣味なの？」
趣味悪〜。
「…っ！」
色々と腑に落ちない事があってカマをかけたら…
はい、図星〜。
「あの兄妹二人なら執事ひとりとコックで十分だろ？秘書もいるんだし。」
それに今時、そんなコスプレしてるメイドなんて秋葉原以外にいねぇよ。
「…。」
「それに…。」
「？」
「見えてますよ？真っ赤なキスマーク。」
にっこり笑ってトントンと自分の胸元を指で突っつくと、バッと胸元を両手で隠した。
「もう遅いわ。そんな胸元開いた服着てるから見せびらかしてるのかと思ったわ。」
アイツ…
自分は好き勝手してんのに、妹は雁字搦めに縛り監視して…
しまいには自分の身内と執事だけがAの味方であるように洗脳してやがる。
「マジでタチ悪ぃ兄貴だぜ…。」
「若。」
「あ？」
「親父から連絡で…。」
それ以上は言い淀んだ潤はキュッと唇を結んで、視線をも俺から反らす。
「松本から？」
今日、Aと会う事を知っててわざわざ松本が…？
その事実と潤の態度は嫌な予感しかせず…
潤の力強い目が再度俺を捉えると、
「二宮家から正式にお断りのご連絡を頂きました。」
そう淡々と告げた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 18時
