幻聴 ページ10
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your side
「っ…チシヤ!クイナ…!」
人間が転がる。
魂が抜けて、血が滲む人間が。
キングが去った後に一人一人声をかけ、生きている者が居ないか確認していたがキリがなくてやめた。
あの時と同じだ。
アグニら武闘派が殺戮を始めたビーチと全く同じ。
私だけが立ち尽くして、他の人間はみんな死んでいる。
彼らを見ながら嘆くのだ。
死ぬ者とそうでない者の違いは、一体何なのだろうか、と。
「チシヤ!クイナ…!」
叫び続ける、
合流したい一心で。
しんとした静寂が辺りを包んだ。
原宿方面に足を進めながら、緑が生い茂る建物を見つめる。
あんなに賑わっていたロフトやパルコは、今や見る影もない。
ため息を着きながら飛行船が動いていった方面を確認すると、その向こう側にもうひとつ飛行船が浮かんでいるのを見付けた。
「…なるほどね」
あの飛行船の下がゲーム会場になっているのか。
きっと、お互いには干渉しない。だからこのスペードのキングから逃げたければ他のゲームに入ればいい。
…もしかすると、そこで皆を見つけられるかもしれないし。
頭を回転させる。
昨日から何も食べていないせいか少し息切れが早いが、体力に自信が無い訳では無い。
取り敢えず食べ物を食べて、そこからだ。
生きるために、チシヤたちともう一度再会するために。
【お前を仲間だと思ってる奴なんか居るのか?】
うるさい。
黙ってよ、所詮幻聴のくせに。
どうせだったら姿を現してよ、幻覚まで見えてよ。
ボーシヤの薄い声をかき消すように、私は歩き出した。
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作者名:みりん | 作成日時:2023年3月13日 23時