独占欲 ページ11
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chishiya side
「困ったねぇ」
おそらく投げ込まれたのは手榴弾だろう。
銃以外にもあんな武器があるのか、前途多難だな。
体を起こして息を吐く。
キングが去った渋谷は静寂に包まれており、辺りに転がるのは息絶えた人々。
一人一人体を触り武器などを持っていないか確認するが使えそうなものはひとつもなかった。
心做しか、風に乗って彼女の声が聞こえてくる気がする。
Aのように耳がいい訳では無いから懐疑的だが、微かな音を頼りに歩く。
方向は原宿。
「…ヤ…チシヤあ…」
近づくにつれはっきり聞こえる、彼女の頼りなさげな声と自分の名前。
頭が良くて何事にもすぐ気づく、優しくて聡明な彼女がこんなにも弱った声を出すのかと。
座り込みながら項垂れる彼女の姿を見た瞬間、言い表せない気持ちが胸の中を支配した。
間違っても、不快感や嫌悪感などでは無い。
ぶわりと広がる優しい気持ち、思わず胸がキュウと鳴く。
「…どこ…」
腹の奥がゾクリとした。
強い彼女にこんな顔を、こんな声をさせているのは自分なのだと。
理解した瞬間、ストンと胸の中に気持ちが落ちる。
…そうか、これは「独占欲」だ。
自分が生涯持つことは無いと思い切っていたもの。
「…A」
近づくと、バッと顔を上げた彼女。
瞳の奥にはどこか警戒心が混ざっていて、自分の顔を目視した瞬間にそれは飛散する。
…あぁ、これは。
「そんなに恋しかった？」
恋しかったのはどっちだ。
素直に気持ちを言えない自分にほとほと呆れるが、目に涙をためながらコクリと一生懸命頷くAを見ると、そんなことは一気にどうでも良くなる。
「心細かった、…」
「ごめんね。怪我はない？」
彼女に駆け寄り膝を着く。
顔や体を確認するが、目立った外傷は無いようだ。
舌っ足らずだが口が回らないといった症状もないから、頭も打っていないだろう。
こういう時、元の職業が医者でよかったとほとほと痛感する。
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作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
