The Crow's Dream 4 (ページ38)

今日:14 hit、昨日:105 hit、合計:48,682 hit

殺しましょうページ38

・

chishiya side

「…あの子、殺しましょう？」

聞き間違いかと思った。
青白い顔をしたイッペーくんが呆けた顔をしながら「へ？」と聞き返すと、じれったそうに飴を噛み砕いたウルミが仲間を引連れてこちらへ囁く。

「だからぁ、あの子。」

細い指が指し示すのは棚を物色している彼女。
…Aだ。

「Aが、何？」

「殺すのよ。」

「…何で？」

「あの子きっとジャックよ、そうでなくても協調性がないわ。今だって話し合いに参加せずに歩き回って…。」

協調性、ねぇ。
イッペーくんが気まずそうに「あれは僕の薬を…」と口を挟む。
ウルミにギロリと睨まれて慌てて何も言わなくなったが、彼女の優しさを「協調性の無さ」だと捉えられてしまうのは少し不満だった。

「……Aじゃない気がするけどなあ」

「どちらにせよ、可能性は潰した方がいいじゃない。…ね？」

こてんと小首を傾げながら問われるが何にも心に響かない。
ちらりとAを見る。
整った顔はこのゲームが始まってから晴れない。優しく微笑むあの表情が好きなのに。
ハァ、と息をつくと了承したと見なされたのか、じゃあお願いね。とテーブルまで歩いて去って行ってしまった。

…女王様気取りの彼女は、気付いていないのかな。

彼女の後ろを雛鳥のごとくついてまわる、自分の手下。
彼らの瞳がターンを増す毎に鋭くなっていること。
渦巻く疑心暗鬼は、仲間殺しを始めた時点で拭えない。

「イッペーくん、どうぞ。2錠だって。」

いつの間にか戻ってきたA。
白い粒を彼に手渡すと、不安がるといけないと思ったのか丁寧に説明書を持ってきた。
キャップを開けた水を渡したあと、ウルミの方へ近寄る。
待ちきれないといった表情でAの髪の毛を上げ、マークを一瞥した彼女は微笑んで言った。

「あなたのマークはハートよ。」

ありがとう。
後ろを向いた彼女の首輪が蛍光灯の光に反射する。
そこに寂しく存在するマークはクラブだ。
髪の毛をおろし近寄ってきたAが伏せていた瞳をあげて微笑む。
ただいま
まるでそう言っているような表情に微笑み返し、彼女の多すぎる敵に思いを馳せた。

「厄介だねぇ、本当に。」

悪意とか憎悪とか。
そんなもの全部、彼女の前から消えればいいのに。
柄にもなくそんなことを思ってしまう自分の気持ちに名前を付けるとしたら、何なのだろう。