手放した ページ39
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your side
「Aさん、お話しましょ？」
チシヤ達と上に登ろうとしていた時。話しかけたのはウルミだった。
「あー…」
「ね、いいでしょ？仲間なんだし。」
クルクルと髪の毛を指で遊ばせるウルミは私の腕を取る。
ちらりとチシヤの顔を見た彼女はそのまま腕を引いて、数人の取り巻きの元へ座らせた。
微妙な顔をしているイッペーくんと相変わらず鋭い瞳でこちらを見ているチシヤに苦笑いしながら、「先に上に戻ってて」と言う。
「あ…、こんにちは」
「こんにちは。」
カネコさん、だったっけ。
中年の男性が汗を拭いながら私に話しかけた。
「もう8回目になっちゃいましたね…」
「そう、ですね…」
ジャックは誰なんでしょう。
遠い目で呟く彼も、ここまで生き残っているということは同族殺しに加担してきた証拠だ。
おそらく。
私の予想だけど、このグループの中にジャックはいない。
きっとハートのジャックは大人数で群れることを嫌うはず。安心出来る相手を1人見つけて、その人と最後まで生き抜く。
私なら、そうするから。
「そうだ。この人、ピアノが弾けるのよ。」
話題提供のつもりか、周りの人間に向かって自慢そうに言うウルミ。
「あぁ、確かそんなことを序盤で言ってましたね。なんの曲が弾けるんですか？」
「まぁ…ひと通りは。」
「へぇ〜、じゃあ私みたいな安月給と違ってお給料が沢山入るでしょう」
「どうでしょう…。現役の頃は未成年だったので、親が管理していました。」
チクリ。
あの頃を思い出して胸が痛む。お金に囚われていた、あの頃を。
目を伏せた私を意味ありげに見つめたウルミは、「なんで辞めちゃったのぉ？」と不躾に質問してきた。
「…え、」
「確かに、そうですよね！」
「うんうん、気になります」
「そんだけ稼げるならなんで手放しちゃったの？」
沢山の視線がこちらを向く。
息が詰まる。
力任せの音色、叩くように引っ掻いた鍵盤、それでも鳴り止まない拍手、
「あ、……私、……私は、」
頭の中でキーンと何かが鳴る。
ウルミが堪えきれないようにクスリと微笑み、私が唇を強く噛んだ時。
「何してるの。」
振り返らなくてもわかる、低く優しい声。
いつも、真っ先に救いの手を差し伸べてくれるのは決まって彼だ。
……救ってあげる。
そうのたまったウルミは顔を強ばらせ、私の後ろを凝視した。
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作者名：みりん | 作成日時：2023年3月13日 23時
