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9話 ページ9

そこまで言い切って、浅い呼吸を繰り返す。一息に言い過ぎた、酸欠になりそう。少し落ち着いて、私を諌めようとした硝子の顔を見てみる。案の定、と言ってしまっていいのか分からないけれど、……案の定ドン引いた顔をしている。


「何その『うわ……』とか言いそうな顔。私にも心っていうのがあってね」
「うわ……」
「言わなくていいから。フリじゃないんだよね、実は」
「いや、マジで……さすがにあいつ()に同情する」


いつも死にかけな彼女の目が更に死んでしまった。これは私のせいだろうか、……私のせいなんだろうな。
傑に同情する、とまで言い切った硝子。その気持ちはよく分かる。私だって彼に同情する。こんな重い女に好かれてしまって。でももう、私、彼を誰にもあげられない。傑の隣は私のものだ。

罪悪感のこもった息を吸って、吐いた。


「……硝子には言っちゃっていいと思うから、もう言うんだけど」
「欠片も聞きたくないけど」


余りに彼女の返答が食い気味だったから、私は少し笑ってしまった。聞いてよ、と再び睨んで見せて、本気で聞きたくなさそうな硝子に告げる。


「私、傑が言うことは正義だと思う。……傑が言うなら、全部合ってるような気持ちになる。それが、人として間違ってても」
「きっしょ」
「それは言い過ぎってやつだと思う」


私の顔を見もせずに吐き捨てた、私の友達。私の周りは辛辣な人が多い気がする。

硝子は口から煙を吐き出した。顔にかかって煙たい。


「洗脳かよ」
「恋は盲目だよねぇ」
「洗脳だな」


惚れた弱みという、いじらしく可愛い感情。それなのに、硝子はそれを洗脳などと言って切り捨てた。私が訂正してもだ。本当にひどい。
私は口角を上げてみせた。愛想と、ほんの少しの自嘲の色を含ませながら。


「確かに、私の愛は異常だと思うよ。小学生とかの恋愛みたいに、可愛いのじゃないと思う。傑を構成するのが私だけだったらいいって、思うくらい、執着してる」


高校生らしい、好きだけの感情じゃない。
でも、確かにある『好き』は本当。その『好き』は本当で、純粋で、少し泣きたくなるくらい。胸の奥が痛く優しく締めつけられて、苦しい。


「ねえ、君、本当に好きなんだよ。どうしようもなくて、傑を私のものにしたい……」


視界が潤むのを感じながら顔を上げると、そこに彼女はいなくて。代わりに、困ったような愛しい人がいた。

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作者名:べにしょうが | 作成日時:2022年5月7日 19時

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